もしもし、そこの読者さま

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おやホロの定例トークイベントが始動 2018年1月29日(月) OFFLINE第0回@都内某所(オガワコウイチ、關(セキ)、カナミル)

 おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワさんが、音楽制作についての話を繰り広げるイベント「OFFLINE」がスタートしました。その第0回目に当たるイベントが都内某所で行われたので、行ってまいりました。この日のゲストは關(セキ)さんでした。2017年の1月に、自身がリーダーを務めていたNATURE DANGER GANGが活動休止してからは、g.a.g、テクノウルフ等での活動をされています。おやホロとの共演回数はかなり多いし、昨年(2017年)のカナミル生誕ライブでの共演も記憶に新しいセキさん。彼のすばらしい立ち回りもあって、この日のトークは非常に充実したものとなりました。

 今回はあまりキャパが広くない会場での開催でしたので、すぐにソールドアウトしてしまったそうです。あの夜だけのものにしてしまうには惜しいお話がたくさん飛び出しましたので、記録を残しておきたいと思います。

 

******

オガワ じゃあ、みなさんグラスを手に取ってください。今日は真面目な真面目な、本当に真面目な音楽の話をたっぷりやっていこうと思いますので、かんぱーい!

(かんぱーい!)

オガワ ああ、うまい!

セキ うまいなあ~。

オガワ あとはもう、飲んでいただくだけなんで。

セキ そうですね。

オガワ 僕とセキくんはちょっとしゃべるということで。

セキ ちょっと大きい声でしゃべってるみたいな感じでね。

オガワ そもそも、なぜセキくんを呼んだかということを話しましょう。場所は今回のところに限らないんですけど、トークイベントをシリーズ化していきたいという希望があるんです。

セキ そうなんだ!

オガワ なんでかというと、僕がお仕事で絡む作曲家さんとかって、けっこう音大出身者とか音楽系の専門出身者とかが多いんです。ちゃんと楽譜も読めるというような。でも僕は何もできないんですよ、実は。タクちゃんとかに「オガワさん、これスケールFっすね?」って言われても「知らねーよ」って(笑)

セキ 俺も分からないけど、Fくらいは知ってた方がいい気がするな。

オガワ 「これのスケールは何ですか?」って言われても、自分で調べろよって思うんですよ。スケールとか知らないんですよ。

セキ 俺に聞くんじゃねえ、と。

オガワ あと、ギターのコードも適当に押さえてるだけなんですよ。

セキ 適当なの!?

オガワ そうそう。一つも知らないの。

セキ じゃあ、適当に押さえてきれいな音が出たら、それはイケるってなるの?笑

オガワ 最近、こういう場で話すことも多くなるだろうなと思って、自分のコードは何なんだろうって思って調べたら載ってなかったんですよ。

セキ 新発見じゃないですか(笑) 発表しましょうよ。

オガワ でも、コードって無限にあるらしいよ。今日から始まるこのシリーズのコンセプトはまだ明かしていなかったんですけど、音楽的な教養の無い人たちがどうやって音楽を作っているのかという話をしたいなと。僕はアウトサイダーなわけですよ。音大とかに行ってちゃんと勉強をしたわけではない人たちが作っているモノというのは、どうやって作られてるんだろうと思って。

セキ それを紐解いていくわけだね。

オガワ そう。紐解いていきたい。そういう立場の若い子って最近多いんですよ。Ableton liveという音楽制作のソフトがあって、それはセキくんも使ってるよね。

セキ そうですね。使ってる。

オガワ あれを使えば、コードとか何にも分からなくても作れるよね。

セキ そう、誰でもできる(笑) 俺がやってることは誰でもできるよ(笑)

オガワ そうね。でも、何か楽曲ができたところで、みんな同じようなものを作るじゃん。

セキ あー、たしかにね。

オガワ 最初から入っている音を並べて、これでできましたと言うような人が多いからね。そういうものと、お金をもらって作られる音楽との差は何なんだろうということで、アウトサイダー代表としてまずセキくんを呼んだんです。セキくんも多分コードとか知らないだろうなと(笑)

セキ そういう話はオガワさんと一回もしたことなかったですけど、そう思われてたんですね(笑) たしかにそうなんですけど、やっぱそう思われてたんだなあ。

オガワ 「1小節」ってわかる?

セキ 「1小節」はギリギリ(笑)

オガワ セキくん。俺もギリギリなんだよ(笑)

セキ ワンツースリーフォー、これが1小節でしょ?

オガワ そうなんだよ。多分ね、この辺を一番よく知っているのがカナミルなんです。

セキ え、カナミル!?

オガワ カナミルは楽譜が読めるから。

セキ あ、そっか。吹奏楽をやってたんだっけ?

オガワ そうなんです。だから、それを分からない人がどうやって音楽を作っていくのかを話していこうという会なんです。

セキ はいはい。やっと趣旨が分かった(笑) そういうことだったんですね。

オガワ そういうことです。セキくんを呼んだ理由の一つとして、そもそもどうして音楽を作り始めたのかということを、一緒にタイムマシンのようにさかのぼりたいと思ったんですよ。

セキ はい、さかのぼっていきましょう。

オガワ まず、ギターが弾けていれば、俺はこういうことになってなかったんですよ。

セキ え、ギター弾いてるじゃないですか。

オガワ それはね、最近なんだよ。弾けるようになったのは。12歳の時にアコースティックギターを買ったんです。

セキ どうして買ったんですか? 何に憧れたんですか?

オガワ 何に憧れたんだろうなあ。ウータン・クランかな。

セキ ウータン・クランに憧れてギター買う!?笑 ウータン・クランに憧れてギター買うんですか?笑 ゆずでしょ? ゆずじゃないの?笑

オガワ ゆず、超嫌いだもん(笑) ヒップホップが音楽の目覚めなんだよね。ウータン・クランPublic Enemy。自分一人で完結できるものを考えて。ターンテーブルを買おうと思ったらすごく高くて。12万円くらいするじゃん。

セキ しますね。めちゃくちゃ高い。

オガワ 高いから買えなかった。エレキはハードロックの馬鹿がやるものだから買えない、ベースはどんな音がするか分からないから買えない、ドラムは置けない。そうやって消去していったらもうアコギしかなかったんです(笑)

セキ すげえなあ。もう意味わかんねえわ~。何でもいいからとりあえず音楽がやりたかったんだね。

オガワ そうなんです。ヒップホップのTAB譜って売ってないじゃん(笑)  ウータン・クランとかPublic Enemyを弾きたいなと思っても、あれって弾くとかじゃないじゃん。

セキ ヒップホップにその概念は無いね(笑)

オガワ Public Enemyって昔のレコードから音を引っ張ってきて、サンプリングしてやっているんですよね。それを何とかアコギでできないかと試行錯誤した結果、できなかったんです。コードも一個も押さえられなかったからギターは捨てて、楽器ができないんだったらラッパーになろうと思ったんですね。中2くらいからレコードをディグり始めたんですよ。渋谷のマンハッタンレコーズとかで。

セキ ヒップホップをやろうとして、アコギを買って、ラッパーになろうとしたんだ。全く繋がらないですね(笑)

オガワ 演奏できないから、歌の入っていないオケが欲しかったんです。誰も知らないようなやつが欲しくて、300円のフュージョンインストコーナーでカッコいいジャケットのやつをひたすら買ってきて、それを流しながらラップをしたんです。でも、ラップをして思ったのが、言いたいことが無いということで(笑) 今度は、ラッパーに一番大事な「言いたいこと」が無かったんです。

セキ なるほどね。世間への不満とかね。

オガワ そう。俺らの時代だと、日本ではキングギドラとかBUDDHA BRANDが流行ってきてたじゃん。そういう人たちに共通していたこととして、言いたいことある風だったじゃないですか。

セキ でもオガワさんは?

オガワ 無い!! 何も書けないと思って。何かが美味しいっていうことくらいしか言いたいことがなくて。それじゃあ無理だなあと思ったんです。

セキ 当時のオガワさんが、何かが美味しいっていうラップ聞きたいな(笑) 作っておいてほしかったなあ。

オガワ それでモヤモヤしつつ中学校3年生くらいになって、でもオガワ少年には音楽をやりたい気持ちがあったんです。自分にできるものをひたすら探していた。言いたいことが無くてもできて、簡単で、カッコいいもの。それで出会ったのが、ソニック・ユースとかで。歌詞を読んだけど何言ってるか分からないじゃん。そこで、意味が無くてもいいんだと思ってオルタナティブミュージックに入っていったんです。

セキ そういう流れだったんだ。遠回りしましたね、オルタナまで。

オガワ 最初からそこに行ければよかったんだけど、ヒップホップを挟むと、いろいろね。

セキ そこまでで何歳くらいですか?

オガワ 15才だね。それから高校生になったときにローンを組んでエレキギターを買ったんです。ギターを買わないとソニック・ユースはできないから(笑)

セキ たしかに。絶対できない(笑)

オガワ ソニック・ユースにはもう一つ一番大事なものがあるじゃないですか。

セキ ドラム?

オガワ そう、バンドです。高校がわりかし進学校だったんだけど、みんなハイスタしか知らないんですよ。

セキ あ~。オガワさんていま何歳でしたっけ?

オガワ 35。今年の12月で36才です。

セキ なるほど。

カナミル そんなに歳だったんだ(笑)

オガワ セキくんは何歳だっけ?

セキ 今年の7月で33になります。

オガワ 近いんですね。これで高校生の振り返りができた。文化祭でハイスタをみんなやるじゃないですか。俺はあれがすげえ嫌いで、人の曲をやってモテて何が嬉しいんだろうという思いがあったんですね。

セキ さっきから言われてるの、全部俺のことなんじゃないかと思ってきた(笑)

オガワ 知ってる知ってる。俺も一応ね、ハイスタはモテるために……笑

セキ やってるんかい!笑

オガワ 聴かされたことはある。

セキ いや、弾きながらこれでモテるって思ってたでしょ。

オガワ 無きにしもあらずだね。高校生の時も僕はませていたので、高校時代はちやほやされてもいいけど、大学に入ってラグビーとかやって、大学卒業したら社会人チームとかに入って、20代後半にウイスキーに目覚めるみたいな人生を思い浮かべていて。そこにノーを突き付けようと思ったの。だからオリジナルをやろうと思ってバンドメンバーを募ったんですよ。そしたら一人も集まらなくて。

セキ どうやって集めたんですか? ミクシィ

オガワ その頃はミクシィなかったねえ。そこで、借金をしてMTRを買ったんです。音楽を作るためのソフトが今はパソコンでいっぱいあるけど、それの実機版みたいなやつです。それで作った時に、ドラムを叩かないからソニックユースみたいなことはできないんですよ。だから、そこでまたヒップホップに還っていくという流れがあったんです。ずっとロックできなかったんです。ヒップホップは身に染みついてるし、ちょっとギターを弾いてサンプリングしてループすればできちゃうから。それが高校時代。高校を出てからやっとオルタナティブとかを分かる友だちができて、バンド名を付けてライブしていたんです。

セキ やっとそこまでいきましたね。バンド名を教えてもらってもいいですか?

オガワ これはヤバいんですよ(笑) バンド名を言ったら外人が「リアリィ~!?*1」っていうくらいヤバいんです(笑) それがねえ、「スピリチュアルガイド」っていうんです。

セキ ガイドって、誘なってくれるってことですよね?

オガワ レゲエバンドみたいだよね。これは、お香の名前なんです。

セキ それ二十歳くらいでしょ? いいっすねえ。

オガワ スピリチュアルガイドは惜しまれつつも解散しました(笑) 22歳くらいでスピリチュアルガイドが解散したんですけど、解散理由は就職して忙しくなっちゃったからなんですよ。それから僕は3~4年くらい会社で働いてたんです。でも、やっぱり音楽をやりたいと思って辞めたんですよね。ある時、この会社で長く続けるんだったら、どこかで腹をくくらなくてはいけないというのが見えてきて。ある日上司から「最近仕事に身が入ってないじゃないか」ということも言われて、違う部署に回れるように配慮もしてもらったんだけど、そこが自分のやりたいことと全然違っていて、もう無理だと思って辞めたんです。そのあと違う会社に入ったけど、そこは潰れてしまい、フリーランスやりつつバイトしたりしながら今に至るという感じです。

セキ そこから現在までがスピーディーすぎるなあ(笑) そこらへんがすごく知りたいのに! 今のような活動をするようになった経緯とか。

オガワ その辺の話は次回かなあ。

セキ うまいなあ!笑

カナミル セキさんの人生も知りたい!

セキ 俺の人生?

カナミル 知りたい。

オガワ いまの關くんに至るまでの半生を語ってもらおうかな。

セキ 俺の話? 俺はもともと、音楽は全然好きじゃなかったです。音楽には興味が無くて、ゲームがめっちゃ好きだったんですよ。仲の良い友達が、中学生くらいに色気づいてきて「俺らバンド組もうと思うんだよね」っていきなり言われて。仲の良かった友だちがバンド組んじゃって、俺だけ仲間外れにされちゃったんですよ。ただ、そのバンドのドラムをやってたやつというのがとにかくドラムマニアが上手いやつだったんです(笑) あいつドラムマニア上手いからドラムやらせようみたいな。でも、ドラムマニアのやりすぎなのか知らないけど、一個フレーズ間違えちゃったら止まっちゃうんですよ(笑) それで、バンドにならなくてそいつは辞めたの。ここで俺がドラムをやったらみんなでまた仲良くできると思ってドラムを始めたんです。俺は当時バンドとか全く興味なくて、小室とかが好きだったんだけど、そこで始めたわけです。それで結局最後まで音楽をやったのが俺だったというわけです。

オガワ じゃあ、ドラム叩けるの? 今でも?

セキ 叩けます。10年くらいやってたんです。ずーっとドラムをやってたんだけど、最後にやったバンドが解散して、でもDTMとかはその時からやっていて、望月さんに誘われてライブに出てマイク握った瞬間に人気が出たんです(笑) 俺のドラムの10年は何だったんだろうって(笑)

オガワ ソフトは何から始めたの?

セキ 最初からliveですね。あんなに楽器好きだったのに、結局俺は楽器向いてなかったです(笑)

オガワ そこからハバナイの浅見さんとかにも出会ったんだね。一番のアウトサイダーはあいつですよね。あの人が一番ヤバいからね。

セキ あの人はビットレートとか何も知らなかったもんね。

オガワ エメラルドのレコーディングの時にびっくりしたことがあったんだけど、「浅見さん、オーディオインターフェースどこにあるんですか?」って聞いたら「ここ!」って指したのがmacbookのマイク入力端子だったからね(笑) まあでも、今はちゃんとした機材でやってますからね。

セキ あの人も呼びましょうよ。

オガワ そうだね。

セキ 俺も呼んでください。すごいイジるんで。俺が一番うまくイジれますからね(笑) 酒は飲まないけど、みんなで褒めればそれで酔っぱらっちゃうタイプだからね。

オガワ あの人は飲まなくてもテンション上がるからね。こないだ浅見さんとはしごして飲んだんですよ。浅見さんウーロン茶しか飲まないんだけど、2軒くらいはしごした間に3回くらいウズラの卵を頼んでた(笑) 「ウズラ食いましょうよ!」ってずっと言ってて(笑)

カナミル 浅見さんは最近、筋肉を付けるためにたんぱく質を摂りがちだから(笑) チキンばっかり食ってるもん。

セキ ということで、俺の音楽ヒストリーはそんな感じです。

オガワ そこから今まで、よく俺もセキくんもやってるよね。ニコ動とかで曲を作っている子って、打ち込みがめちゃくちゃ細かかったりするじゃん。あれは真似できない。ヒャダインさんがやってることとか。そのジャンルは自分の中でバッサリ切ってるところはあるよね。

セキ 今の最前線で活躍している人って、トラック数がすごく多い。もう意味わかんないじゃん。

オガワ でもね、超売れてる人って意外と少なかったりするんだよ。ちょっと自慢なんだけど、カール・ハイドの作り方を見せてもらったことがあるんですよ。アテンドしたことがあって。ドイツのイベントを日本でやるとなった時にちょっと。その時に聞いたら、カール・ハイドは2コードで作ってるんですよ。そういう人たちの作り方をけっこう突っ込んで聞いて、それでいいんだと思ったの。

セキ それはいくつくらいの時ですか? おやホロ始めるよりも前ですか?

オガワ 前だね。20代後半かなあ。それで、その作り方でいいんだという思いが加速していったんだよね。

セキ なるほどね。おやホロを始める頃にはDTMは始めてたんですか?

オガワ 仕事としてやるようになったのは20代後半かな。バンドはできないから、808とかを使って作ってた。でもあれも慣れていないとカッコよく作れないじゃん。だからフォークトロニカ作ったの。

セキ バンドまでの流れはこれまで聞いてきましたけど、テクノとかはどういう風に触れ合ったんですか?

オガワ 一人で、バンドじゃなくてもできるものってことで(笑) 今日も抽選会の商品として持ってきたものがあるんですけど、channaっていうバンドをやってたんです。その頃のライブレコーディング音源とかを持ってきていますんで。ドラムが4人くらい変わっているんですけど、一番最後のドラムは今も一緒にやってるピロさんなんです。ちなみにchannaの由来は「地雷を踏んだらサヨウナラ」という映画の中で浅野忠信が子供に向かって叫んだ「チャンナー!」です(笑) これでいいやと思って。劇中の子供の名前です。そのバンドも解散して、一人でできることは何だろうなと思って始めたのがフォークトロニカだったんです。

セキ なるほどね。そこからおやホロまでは次にとっておきましょう。ここからは、オガワさんがどのように音楽を作っているのかということを単刀直入に聞いてみましょうか。

オガワ ちょっとオシッコいってきます。

セキ このタイミングで?笑 じゃあ、この間にカナミルの話を聞きましょうか。カナミルはどういう経緯で音楽をやるようになったの?

カナミル 私は2歳からピアノをやっていて。高校生までずっとピアノをやってたんです。ピアノとか打楽器。

セキ じゃあ、作曲もできるの?

カナミル できないです。私、コードとかも分かんないんで。

セキ なんでだよ(笑)

カナミル クラシックピアノをやってる人は分かるかもしれないんですけど、楽譜通りにやるからコードという概念が無いんですよ。ドミソの音はドミソであって、Cではないんです。

オガワ セキくんはドミソの時点で分かんないでしょ(笑)

カナミル それで、中学に入ったら打楽器始めちゃったから、スネアの音、バスドラの音、シンバルの音っていうものしかないし。作曲はできないです。人生でクラシック音楽しかやってないですね。

セキ そうなんだ。ドラム叩いてたんだっけ?

カナミル 高校の時にバンドでやってただけなんで。チャットモンチーのコピバンやってました(笑) 女の子三人で。

セキ 音源は無いの?

カナミル 無い無い。

セキ あるっしょ?

カナミル 本当に無い無い。

セキ 実家探したらあるっしょ?

カナミル ……あるかもしれないです(笑)

セキ じゃあ、次はそれを聴きながらその話を聞こう! もう1回やってよ。いけるっしょ、一夜限りとかで。

カナミル 超練習しないと。ドラムはむずいから。

(バンド名は?)

カナミル 記憶が無いんだよー。

セキ ダサいから言いたくないだけだろ~(笑) 嘘つくな~(笑)

カナミル 何だったっけなあ。

オガワ 俺も高校の時のバンド名は絶対に言えないもん。

セキ それ、言う流れじゃん!

オガワ それは言えない!笑

セキ スピリチュアルガイドは言えたんだから、もう何でも言えるでしょ!笑

オガワ 高校の時に組まされたコピーバンドがあったんですけど、そのコピーバンドでは大阪のパンクバンドのコピーをしてたんだけど、そのバンド名は絶対言えない!!笑 はい、じゃあ曲の作り方の話をしようか。

セキ どうやっておやホロの曲は世に出されるのかという話をね。

オガワ 最近ツイッターでけっこうほのめかしてるんですけど、まだ詳細は出せないんだけど3~4枚同時に作ってるんですよ。色々とね。

セキ すごいっすねえ。おやホロ以外でも?

オガワ まあまあ。そこら辺はあれなんだけど、おやホロのアルバムの『・・・』を作ってる時もそうだったんだけど、まず、すごいシンプルに「良い曲を作る」っていうことで作るんですよ。良い曲を作れば、他の曲で遊んでもいいやって思えるから。最近出した『17』には「slow dancer」という曲が入っているんだけど、あれを最初に作ったの。これを作っちゃえばあとは何をやっても大丈夫だろうと思って。

セキ いや、作っていく過程を知りたかったんだけど(笑) もう良い曲が出来上がっちゃった!

オガワ あのねえ、ちょっと難しい話なんだけど、アルバムの全体の作り方と1曲1曲の作り方は違うんだよ。

セキ あー、まあね。じゃあ今はアルバムの作り方を教えてくれてたの?笑

オガワ そう。良い曲を作る。良い曲を作ればあとは遊べるから。まあ、曲の作り方はいくつもありますよ。ギターで作るとか。あとでセキくんの作り方も聞きたいからちょっと考えてて。「生きてる」ってどうやってできたんだろうと思って。

セキ はい、わかりました。

オガワ 俺が曲を作るときにわりとよくやるのが、ラジオをずっと流すの。車移動の時に。そこで良いコード進行が流れてくるときあるじゃん。そこでiphoneのレコーダーをONにしてガンガン歌うの。それで、帰ってきたらそのメロディ歌いながらギターで別のコードを当てるの。

セキ なるほどね。それでパクリじゃなくなる。うまいパクり方の話をしていますね(笑)

オガワ 誰かが弾いてくれたコードを自分が思うコードと組み合わせて作る。それをわりかしやる。だから俺のレコーダーには、ほぼオケが入っていなくて「ハァハァーン♪」みたいなのがめちゃくちゃ入ってる。その作り方は作りやすいかな。

セキ 基本はギターで作ってるんですか? 歌から?

オガワ ラジオやテレビで流れてきたものをすぐに録れるようにしておいて、すぐに歌って作るというのが3~4割くらい。コードを借りて作ってます(笑)

セキ いいの? それで?

オガワ メロディラインはそれにインスピレーションを受けて作っているからパクリじゃないんですよ。

セキ なるほど。俺もそういう風にやりだしてみます。

オガワ セキくんはどうやって作ったの? 「生きてる」は。

セキ 「生きてる」はトラックをもらってるんで。最初はLEF!!! CREW!!!と俺らとせのしすたぁの3組でコラボ曲を作ろうとしてたんです。「生きてる」のサビができた時に、これちょっと3組でやるのはもったいねえなと思って(笑) 

オガワ 俺たちの曲にしちまうぞと?笑

セキ もったいねえから俺らでやっちゃうか!って思って、やっちゃったんです。トラックをもらって、そこに俺と野村でメロディ付けて、それをまたせのしすたぁに持って行って3組でやろうとしてたんです。だけど、出来上がった時点で、これは名曲になるっぽいからあげられねえって(笑) そんな裏話があるんです。

オガワ そうやって作ってるんだ。セキくんはトラックを作ってからメロディを作るの?

セキ 俺の曲の作り方は、とりあえずトラック作りますよ。それで、野村に「歌詞書いてくれ」って言って。歌詞の書き方も無茶苦茶ですからね、俺らは。とにかくノートに60秒間で面白い文を書く、みたいな作り方。そこから面白いワードを拾って肉付けしていく。たぶん誰もやってないと思う。野村が書いたノートが三冊くらいあるんだけど、それいまだに読み返して笑ってるもん。使ってないけど面白いやつがけっこうあるんです。

オガワ サンプリングっぽいやり方だね。

セキ 「生きてる」の歌詞は3冊くらいあるノートの、それぞれの中から集めて作りましたからね。「オッスオラかきグラタン」とか。

オガワ あれ、めちゃくちゃ良いよね!

セキ これ以上しゃべると褒めすぎちゃうし、キモくなるからやめた(笑)

オガワ こっちの話に戻ると、曲の作り方って曲によって全然違って、「ニューロマンサー」はアナログのシンセのモデリングを使いましたね。あれでひたすら遊んでると、面白いパターンが出てくるんだよね。その面白いパターンをどんどんサンプラーに入れてって、鳴らしたら「ニューロマンサー」のあのイントロのフレーズが流れるようになってて、それらをいくつか組み合わせて作ったトラックができた、みたいな。カッコいいトラックになったからメロディを乗せてみようということになって、あのメロディを乗せたりとか。

セキ なるほどね。テクノ的な感じの作り方ですね。アルペジエーターとかを使って?

オガワ そうそうそう。アルペジエーターを使って排除して、この「レ」は使わないとか。それを組み合わせて即興で演奏して、そこから色々ブラッシュアップして、曲にするみたいな。本当に曲によってバラバラですね。iphoneで作ることもあるし。

セキ iphoneの中のソフトで? なるほどねえ。

オガワ 曲の作り方はいっぱいあった方がいいかなと思って。1個だと同じ感じになっちゃうじゃん。

セキ 俺も結局同じようになっちゃうんですよね。難しいですよねえ。

オガワ さて、そろそろ抽選会が始まるようですよ。なんだかんだで時間が経つのは早いですね。けっこう濃い話はしてると思うので。

セキ オガワさんが二十歳までどうやって生きてきたのかを全部聞いたからね。20代前半くらいまでは終わって、そこからおやホロまでは次の回にまわすということで(笑)

オガワ つちやさんがまとめてくれると思うんで(笑)

セキ 今日のこれ、まとめられるんすか?笑

オガワ でも実際、曲の数だけ作り方があるよね。

セキ 曲の数だけ物語がありますからね。

オガワ アウトサイダーの人たちって、やり方が完全にオレ流じゃん。だから真似しようとしても良い結果を生まないとは思うんだけど、アウトサイダーでやりたいってやつがいたら、それは伸ばしてやりたいなって気持ちはけっこうあるんです。どんな面白い奴が出てくるか分からないし。俺もレーベルやってるから、めちゃくちゃいい奴がいたら出してあげたいなって思うし。

セキ え? レーベルやってるんですか?

オガワ 知らなかったの?笑 g.a.g出します?

セキ 出します。お願いします!

オガワ じゃあ、出しましょう。

セキ やったー!! 得したぞ~(笑) テクノウルフも出しましょうよ。

オガワ 出しましょう。

セキ やっぱみんな音楽好きなんですねー。オガワさんが一番好きなバンドは何ですか?笑

オガワ なんだろうなあ。一番聴いたバンド?

セキ 自分の中でランキングとか作るじゃないですか。

オガワ いろいろな部門みたいのがあるけども、生涯で、CD発売日に買って聴いたバンドのトップは、スーパーカーかな。

セキ 分かる。そういうイメージある。

オガワ 俺、ナカコーさんにめちゃくちゃ影響受けてるし。ギターが弾けるようになったのはスーパーカーのおかげだもん。

セキ スーパーカーにありがとうを言わなきゃ。

オガワ 言った言った。ナカコーさんと会った時に、2年くらい前に。

セキ へええ!

オガワ スーパーカーの「PLANET」という作品があるんだけど、それにコード表が付いてたの。その通りにやったら弾けたの。それが高1くらい。

セキ 俺が最初にドラムでコピーしたのは、グリーン・デイの「Basket Case」かなあ。

オガワ あー! やっぱり!!笑 そういえば、おやホロって結構カバーをしているって思われがちなんだけど、百瀬巡と、グリーン・デイの「Basket Case」と、ハバナイしかカバーしたことないんですよ。

セキ 俺らは戦場のメリークリスマスをカバーしてるけど(笑)

カナミル あ、抽選会が始まるそうです!

(※抽選会へ。その後、トーク以外の催しもありつつ、しばらく経ってトーク再開。)

オガワ ちょっと質疑応答的なことをしようか。

セキ オガワさんに聞きたかったけど、聞けなかったこととかがあれば、聞きましょう。

(はい! 高校の時のバンド名をお願いします!)

オガワ それは次回!笑 はい、質問ある方~。

(色々なドラマーさんとやってきたと思うんですけど、オガワさん的に良かったドラマーさんは?)

オガワ アヒトイナザワです!

(おおおおお)

(それは「逃げ」じゃないの?)

オガワ 「逃げ」じゃないんですよ。カッコいい。吉嶋くんも良い! ちなみに吉嶋くんがやってるアートプロジェクトに、今年僕も参加する予定です。

(おおおおお!)

オガワ ついでに言うと、3月12日も5月19日も「予定あり」ってなっていますけど、この二つは絶対に来て欲しい。何もまだ言えないけど。皆さんの想像しない角度のイベントになると思います。

(今までやったことないやつってこと?)

オガワ そうです。今までやったことないやつです。

(おおおおおお!)

オガワ では、もし他に質問があれば。

(オガワさんが去年の7月頃に「ようやく、自分=おやすみホログラムっていうのを受け入れられた」みたいなことをツイートしていらしたんですけど、「受け入れた」とはどういうことなのかとか、「受け入れられなかった」時はどういう気持ちだったのかとか、受け入れられたきっかけとかを教えてください。)

セキ いいねえ。やっと今回のイベントの趣旨に沿った質問が来ましたよ(笑)

オガワ 去年までは、僕はフォークトロニカのアーティストだったんです。気持ち的に。僕の最初の仕事って、そこの新宿伊勢丹の仕事だったんです。ちょっといわゆるスカしているようなやり方でやっていた経験のある人間としては、「アイドル」には少し恥ずかしさがあったんです。

セキ そういう感じがあったんですね!?笑

オガワ あった、あった。俺、J-POP聴けないんです、まったく。J-POPは一つのジャンルだと思っていて。皆さんにも、聴かないジャンルってあると思うんです。そういう人間だった自分からすると、ちょっと恥ずかしいという思いがあったんです。でも、『・・・』というアルバムを出したくらいから、「これは自分の生涯の仕事として誇れるな」って思ったの。あとはやっぱり、二人が歌上手くなってきたりとか、考えることとかも増えてきたから。だからこれは完全に、オガワコウイチの歴史の中にちゃんと入れたいって思い始めたのがそのぐらいの時期だったんですよね。

セキ なるほどねえ。けっこうかかりましたね。

オガワ いやあ、かかるよ~。

セキ おやホロはやっぱり他のアイドルとは違うよね。俺はアイドルとかに全く興味がないタイプの人間だけど、おやホロはやっぱり別格感がありますよ。

オガワ アイドルじゃなくてもいいかもしれないし、そういうところを今年は出せると思うんですよね。本当に俺は打ち合わせが嫌いなんです。打ち合わせが大嫌いな俺みたいな人間が、最近は週に10回打合せしてるんです。

セキ そんなに!?

オガワ 1日3回やるときもあります。昼・夜・深夜に。いま、ものすごくいろんなことを仕込んでいます。おやホロに関してものすごく仕込んでいて、本当に良いことしかないから。

セキ 良いことしかない! みんな幸せだな~!

オガワ おやホロの情報が最近少ないけど、あるんだけど「まだ出せない」ということなんですよ。2月末くらいからめちゃくちゃ情報を出すから、その辺でいろんなことが起きるんで。

セキ マジですか?

オガワ でも変なことはしない。

セキ 変なことするのは今日くらいですよね(笑)

オガワ これが多分一番変だよ(笑) この変な会は毎月やりたいとは思ってます。セキくんまたやろう。また第2弾をやります。次回はテーブル取っ払ってやります。

セキ これで、立ち見は嫌だな(笑)

オガワ 今日はけっこうしゃべったけど、本当はこの2.5倍しゃべろうと思ってたんですよ。

セキ 今日はオガワさんの歴史を聞きましたけど、おやホロを始めるまでのところが俺は気になるなあ。

オガワ 本当は今日ね、出たがっている人が他にもいたんですよ。セキくんは同じアウトサイダー同士として、通じるところがあったからね。

(セキくんで良かったと思う!)

オガワ そうね。もうセキさんはね……

セキ 「セキさん」になってる?笑

オガワ まあ、セキはー……

(間が無い!笑)

セキ 間は無いんすか? 「セキさん」と「セキ」の(笑) さっきまでの「セキくん」でよくないっすか?

オガワ セキくんはこれからもレギュラーで、カナミルは不定期で。毎回アシスタントは直前に公開する感じでね。

セキ そういうわけで、今日はありがとうございました!

オガワ 終了でございまーす。

******

 以上でおしまいです。オガワさんの音楽遍歴は、以前に何らかの媒体のインタビューで読んだことのあるような話も結構混ざっていたと思うので 、次回への期待が高まります。終盤、少し混沌としたイベントになったけど、たまにはこういう感じになるのも楽しいものですね。でもこういうのは2年に1回くらいでいいかもしれない(笑) 

 今後、どのような「アウトサイダー」たちが登場するのか楽しみになりました。もう少し広い場所で聴けたらもっと最高かもしれません。

 

抽選会でいただいたchannaの音源。オガワさんの落書き付き。この時からオガワさんは「We dance alone」と言ってたんですね(笑)

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おやホロのトークに関心を持たれるほどの方は、とっくにご存知かもしれませんが、音楽の作り方の話をしている時に名前が挙がった『17』は、2枚の最新EPのうちの一つです。そして、オガワさんの中の気持ちの転換のきっかけとなったのが3rdアルバム『・・・』(※読み方は「スリー」)。

15

15

 
17

17

 
スリー

スリー

 

 

ヘンミモリ個展「表層/発生」トークの記録その2 1月21日(日)@ART SPACE BAR BUENA(ヘンミモリ、片岡フグリ、イシヅカユウ)

  大久保のART SPACE BAR BUENAで行われているヘンミモリさんの個展「表層/発生」。

 その初日に行われたトークの記録の後編です。なかなか分量がありましたので、2分割しています。前編も併せてお楽しみください。 

lucas-kq.hatenablog.com

 

 トークの後半では個展のテーマにもなっている「表層」をめぐるヘンミさんのお話がありました。作品の深層を知りたがりがちな鑑賞者への挑発が込められているということで、私も非常に共感しながら話を聞かせていただきました。

 文学などでも同じことが言えると思いますが、「作者の意図」というただ一つの正解だけしか、作品の中に込められていないのだとしたら、世界はあまりにも貧しいものになってしまう気がします。私たちが受け取れるのは作品の表層のみであるわけで、作品の外部にあるテキスト等で、作者自身による説明や解説をされて何か感銘を受けたとしても、そこには何かモヤモヤが残るような気がしてしまいます。私としてはむしろ、作者さえ意識していなかったような意味が、色々な人によってさまざまな形で作品の中に見出されることこそが、楽しくて健康的な営みだと思っています。絵画の表面に目を向けよ、というメッセージは非常に心に響きました。

  

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ヘンミ ところで、今日登壇している3人って同世代なんです。私以外の二人は今日初めて顔を合わせてるんですけど、私は各々とはしゃべっていて。同世代感みたいなものって、それぞれの活動の中におのずと出てくると思うんですよ。

片岡 時代性みたいなもの?

ヘンミ そうです。

片岡 うん、やっぱり時代性というのは、どこかに入れないといけないと思います。音楽もそうだけど、アートというのはそれがすごく大きいんじゃないかな。例えば音楽だと、自分が80年代の音楽が好きだったとして、それをそのままやってもダメじゃないですか。プロのアーティストを名乗るんだったら、時代性って必要だと思うので。自ずと考えるとは思いますよね。

ヘンミ イシヅカさんはどうですか?

イシヅカ 振る舞いとかにもしかしたら出るのかもしれないけど、私が着ることになる最新のファッションの方に時代性が強くありすぎるので、逆に私はあんまりそこを考えないようにした方がいいのではないかと考えています。

ヘンミ モデルという職業は、私たちがやっているような絵や音楽を受け止める支持体みたいなイメージがあります。

イシヅカ そうですね、どっちかと言うとメディア的なものではあると思います。

ヘンミ なるほど。では、ここでまた質問を受けたいと思います。

片岡 質問があるとテンポがよくなりますね。何かありますでしょうか。

(イシヅカさんに質問なんですけれども、人の表現を身にまとったりする側として仕事されていると思うんですけど、自分が何かを表現したいと思うことはあるのかというのを伺いたいです。)

イシヅカ すごくありますね。私はもともと趣味で絵画教室に通ったりしたこともあって。いろんな人の表現を受け止めなければいけないし、それをさらに自分で表現することで発信するという風に考えているので、自分の中にいっぱい溜まってきちゃうんですよね。インプットされすぎてインプット過多になってしまうことがあって、そういう時はやっぱり自分でアウトプットする術があったらなと思っています。でも、なかなかそこまでには至らず、他の人の表現を引き受けた時に、別の形でアウトプットしようと考えたりすることはあります。

(モデルのお仕事をしている時は、自分を消しちゃったりするんですか?)

イシヅカ 無ではないですね。自分の中に元からインプットしているものと、デザイナーさんが表現したいものというのを勘案して、自分の中にある引き出しの中から選んでそれらを擦り寄せていくというか。自分と他者の表現したいものを近づけるようにしています。自分を空っぽにするというよりは、自分の持っているものがあるという前提で表現をしたいなと思っています。

ヘンミ 自分の中のストックがあって、そこから出していく感じなんですね。

イシヅカ 音楽もそうだし、映画でもそうだし、何かを着てみたりしたときに自分の中にあったものがパッと出てくることがあります。動き方とかがそれで変わってきたり。

片岡 センスを常に育てていくということなんですね。

イシヅカ どちらかと言えば受動的な仕事なんですけど、インプットということにかんしては能動的にいろいろなものを取り入れようと考えてやっています。

ヘンミ すごく理に適ったやり方ですよね。私は昼にデザインのお仕事をしているんですけど、仕事を効率化させたり、自分が対応できることを増やすための勉強をするじゃないですか。それにすごく似てるんです。対応していくために、10知っていることの中から、最適なものをいくつか選ぶみたいな。すごく「仕事ができそう」という感じがしますね(笑)

イシヅカ 全然普通の仕事はできないんですけどね(笑)

ヘンミ そうなんだ(笑) ご質問ありがとうございました。

片岡 でもそれってヘンミさんにも言えることなんじゃないですか。自分を無にするかどうかという問題は、絵の見方に関して描き手は半分くらいまでしか関与しないことと関係してくるのかなと。

ヘンミ そうでうすね。私は、芸術家然とした感じが苦手なんです。私はこういう激情のもとにやっているんだぞ、というのが苦手で。もちろんそういうのはあるんですけど、それを絵の中に出すということは選択していないんですね。結局、理性でやらないと気が済まない性分みたいなものがあるんです。自分が好きな絵を描きたいというところからスタートしているので、その好きな絵にたどり着きたいというだけなんです。でも、その好きな絵というのはすごく感覚的だから、自分の中でも描いてみないと分からなかったりします。人の絵だったら、これが好きっていうのはあるんですけど、自分の絵って出してみないと分からないんですよ。試作を繰り返して、これを作品にしようという試行錯誤を繰り返して、ようやく「これが自分にとって一番好きな絵かもしれない」と思って、発表するところまでいきます。

片岡 現代アートというものは、どこかで時代をチャネリングして作らないといけないと思うんです。ヘンミさんは東北にある大学で芸術を学んだわけですけど、実家はどこでしたっけ?

ヘンミ 宮城の石巻です。

片岡 以前話したときに震災のこととかもお話したんですけど、震災の後に周りの人たちの作品がすごく変わったというんです。

ヘンミ そうですね。

片岡 震災以後ということを引き受けた作品というよりは、それとは関係のない、自分の中にあるモチーフをやりたいということですか?

ヘンミ そうですね。今日来てくれてる人の中にも学友がいるんですけど、一時期自分たちの卒業制作展でも震災関係の絵が2、3点ありました。そんなに極端には増えていないんですけど、ある程度増えた時期があって。センセーショナルな出来事だったし、もしかしたら制作者は震災で何かを失ってしまったのかもしれないし、そう考えるとそれを絵にするっていうのはすごいと思います。でも自分は正直、震災当時山形にいて、実家は石巻ではあったんですけど、幸い特に大きな被害も無かったんです。大きい災害が起きたことは分かるけれど、自分が被害を受けたという実感が無かったんですね。震災について考えることはありますけど、震災を絵にするということについては、自分の中で何かもっと大きな動機が生まれないとできないと思うんです。私は私としていろいろなことを経た結果、因果としては何かあるかもしれないというぐらいなんです。

片岡 震災に関連した作品を作る人というのは、どこかでつながっている部分があるんでしょうね。一日にして何万人という人が亡くなってしまったというのは事実としてあったけれども、実感というところでいうと、俺はその時東京にいて、すごいことが起きたという感覚はありましたけど、そこに圧倒的な絶望みたいなものというのは正直なかったなと。

ヘンミ 私は幸運にも生きていて、裕福な環境のおかげで絵を描けているという状況にいる。そういった状況で自分が発表するものは、むしろ、自分の好きなものじゃないといけないって私は思ったんです。戦争画だったり、センセーショナルな出来事を次世代に伝えるための絵画は絶対に必要だとは思うんです。でもそれって、仕事の気持ちなんですよね。描くとしたら。私に依頼が来たら描くかもしれないけど、それを描くことが好きかどうかというと、たぶんそんなに好きではないと思います。

片岡 やっぱり、そういう絵は感情では描けないんじゃないですか。描ける状況にいる人しか描けないですよね。戦争画の話になりましたけど、原子爆弾が落ちた時にその中心にいた人って一瞬にして亡くなってしまったわけですよね。でも、そこで起こったことは誰も表現できないという、表現の沈黙みたいな話がありますよね。それに近いレベルで、震災の時の津波の様子を描くかというと、描かないと思うんです。体験した人の見たものは、テレビでそれを見ていた人とは別のものだったと思うんです。

ヘンミ 体験をすることって、すごくミクロな視点で見るということですよね。一人なので。その現場にいる人が見られるものって限られてくると思うんです。それこそ、流されている車だったりとか、倒れた樹木だったりとか。でも、もっと遠くにいる人はその全体像を見ているわけで、絵にはしやすいかもしれないですね。

片岡 そうですねえ。

ヘンミ では、もう一度質問を挟みましょうか。

片岡 真面目な話をしてしまいましたね。

ヘンミ フランクな感じでいきましょうか。

(無作為なものを作為的に作るという作業の中で、どうしても、カッコいいものを作りたいという前提で作業をしていると、手癖みたいなものが出てくると思うんです。その辺はどういうバランスでやられているんですか?)

ヘンミ なるほど。手癖はついていると思います。今日展示している作品の中に「夜の残像」という作品があるんですけど、これってもともと全然違う絵なんです。裏側から見ると分かりやすいんですけど、裏側はめちゃくちゃ赤いんです。なんでこうなったかというと、最初にカッコいいと思ったものを突き詰めていったんだけど、結局赤い面だと線が映えないと思い始めて、どちらを残すかという選択をして今の色に落ち着いたからなんです。そういう分岐が何回も訪れるんですよね。その時々で、これはカッコいいとか、これはあまりカッコよくないぞということで、ルートをどんどん変えていくんです。それで結局、層を作るという方向にも進むんですけど、正直やり方はあんまり決めてないかもしれないですね。色や線って感覚で決めているんですよね。絵の中の一つの要素でしかなくて。自分ではあんまりよい描き方ではないかもしれないと思っています。

片岡 でも、それはありなんじゃないですか? ここに点を置いてみるかどうかという戦いってあると思うんです。俺はそんなに絵は描かないんですけど、たまに描く時があって、赤を塗るときは声を出すみたいな。赤を塗るってすごく勇気がいるじゃないですか。

ヘンミ 分かります。それはすごく。

片岡 でもやらなきゃいけないっていう。そういう戦いの跡になるんじゃないですかね。カッコいいと思った瞬間にもう完成にしてもいいわけじゃないですか。でもしないっていうことは、戦い。まだいけるんじゃないかという。

ヘンミ もちろん、「これはもうカッコいいからやーめよっ」ってなって、そこで止めた絵もありますからね。たしかに、赤を入れるって勇気がいりますよね。

イシヅカ それはどうしてですか?

ヘンミ 強いからですね(笑) 色が強いから。そういえば今日はけっこう赤い服の人がいっぱいいますね(笑) 黒は慣れてきたんですけど、赤と青は。あとは、緑が使いづらいというか、ちょっと苦手なんですよね。でも果敢に攻めてみたりもしてるんですけど。例えば、お化粧をする時でも、赤い口紅ってすごく勇気がいるみたいなところがあって。

イシヅカ 一番最後にやりますよね。

ヘンミ 締めのような感じ。恥ずかしい話なんだけど、私そもそもたぶん絵が向いていなくて(笑) 絵を描くっていう行為が。色彩構成センスとかはそんなに無いんです。でも、やりたい。ここに緑を置いたら、次はこっちにこの色を置くとオシャレみたいなのって分かりづらいなと思ってて。でも、絵を描きたい。シミだったりとか、何かが浮かび上がってくるような絵が描きたいから。それには色彩を構成するセンスが本当は必要なんだけど、どうやって戦っていけばいいのかというところで、色を重ねていって深みを出していくという方向にしか行かないんです。悔しいけど(笑) 

片岡 もともとこういうことをされていたんですか?

ヘンミ 大学に入ってからですね。ちゃんと勉強し始めてからです。それまでは正直、絵という絵を描いたことがなくて。

片岡 彫刻でしたっけ?

ヘンミ 版画ですね。

イシヅカ なんか、重ねてった裏側が全然違うということでしたけど、最初は全然違うことを描こうとしていたということですか?

ヘンミ あ~・・・。今回は、「表層/発生」という個展のタイトルにしたのは、まさにそういう話と関係があるんですね。つまり、一番表に出てきていることが全てだということが言いたくて。私の中では最大限に人に喧嘩を売ったような口調で言うと、「表面を見ないと後ろにあるものなんて分からないんだから、とりあえずお前たちは表面を見なさい!」みたいな(笑) 「この色ってどこから出てきているんだろう」とか、「この絵ってこういうモノに似ているな」といったことって、表面を見ることでしか感じ得ないと思うんですよね。絵の裏面は、基本的に誰にも見られない部分だし。だから、いちいち人の深層を探るのはもうやめにしましょう、みたいな(笑) 「表面上でいろいろ考えてください、私はそれ以上はやらない」っていう。

片岡 そのスタンスって、抽象絵画の人たちがもともとやっていたこととは別のアングルから攻めている感じがしますよね。

ヘンミ もともとアンフォルメルとかアメリカ抽象芸術主義はすごく激情的なんですよね。絵の具をバシャーってやって自分の思いを絵の具に乗せるみたいな。俺は怒ってるんだぞバシャーってやって、これは怒ってる絵ですと言うような(笑) それがちょっと苦手なんですよね。

片岡 感情をどう乗せるのかというのは難しい部分だし、乗せる必要があるのかという問題もありますよね。この前、画家の人としゃべってたんですけど、我々のやっているノイズみたいな即興の演奏をした時に、怒っているとか悲しんでいるというのは分かりやすいけども、楽しいという気持ちを表現することはできるのかと聞かれたんです。こっちも「そんなのあるんでしょうか?」と思ってしまって(笑) 楽しいっていうのは結局共感なので、即興の演奏をする中で盛り上がって楽しいと思うことはあるかもしれないけれど、具体的に愉快さを音で表現するのは難しいんじゃないかと思って。それは、絵画でもあると思うんですけど、何となく明るめの色を使って、楽しいムードというか陽気なムードを出すことはできるのかなとか。悲しいとか怒っているという感情の表現はけっこう安直なものでもあるような気がしていて。

ヘンミ 主観で楽しさを感じようとすると、喜びとかになるんですよね。「楽しい」って難しいなあ。楽しいと感じる絵を私はあんまり描いていないと思います(笑) 皆さんがどう思うのかは分からないですけど、例えば桃色とか黄色みたいな春のイメージの色を使っていると、何となくみんな春の感じを思い出して楽し気な感じに見えるかもしれない。そういったイメージを一度噛ませないと難しいかもしれない。

片岡 あとはタイトルにしちゃうとかですかね。それは敗北な感じもしますけれども。

ヘンミ タイトルは難しい問題ですよね。以前も話したことなんですけど、昔はタイトルを決めるときに、自分が作った架空の英単語にしてたんです。でも、抽象画でそれをやった時に、これは何なんだ?ってなってしまうんですよ。指針が一個もないと人は分からないんだなって。これは敗北に近いのかもしれないですけど。「これは何なんですか?」と言われて、タイトルを見ても分からないし、じゃあもう見ないと言われてしまうのが一番嫌なんです。タイトルを手掛かりにして、いったん見ることができるものの方が親切かなと思ったんですよね。例えばクラシック音楽でも、私はタイトルがないとどんな気持ちだか分からないんですよね。名前を付けるって難しい。

イシヅカ 片岡さんは音楽をやるときに、こういう感じのものを表現しようというのはあったりするんですか?

片岡 前はあったんです。最近はあんまりないですね。歌も歌うんですけど、歌に関する自分のイメージしたものを思い浮かべて、こういう音を出そうということを考えていたこともあったんです。最近はあんまりそういうことは考えなくなりましたね。ノイズっていうものをやるときに、何をしたらいいんだろうというのを考えることもありますね。感情ではないかもしれないですね。あの時のムード、みたいな。ノイズって、「あの曲のあそこが好きだ」とか「この曲をやってくれてうれしい」みたいなことが共有できない音楽なんです。そうなるとやっぱり、持って帰れるものがあるとしたらムードしかないのかなと。

ヘンミ 私たちは、考えてからじゃないとモノを出せないタイプですよね。こういうことを考えてやっているぞ!ということが見えてきて、面白いですね。では、最後の質問にいきたいと思います。質問がある方がいらっしゃいましたらお願いします。

(2018年、今年はこういうことをやってみたいという何かはありますか?)

ヘンミ 私は、画廊で個展をやったりしたことはないんです。絵をずっと取り扱っているような専門の場所でやってみたいですね。今回は、全部私が価格も決めているんです。DMとかも。画廊でやるとなると、そういったことも全部やってくれて、値段も決められちゃうんです。それがどうなるのかが全く想像がつかなくて。違うところで展示をして、違う人たちに見てもらった時に、どんな反応がもらえて、どんな価格設定や見せ方をされるのかがすごく気になっています。だから、外に出てみようという感じです。ご質問ありがとうございます。

片岡 それをやるには、ヘンミさんがヘンミさんにならなきゃいけないですね、変な言い方ですけど(笑) 作家にならなきゃいけない。

ヘンミ ゴリゴリに作家っぽいことしなくちゃいけないですね(笑)

片岡 画廊に出すとなると、作家というものにならないと抽象画は厳しくはないんですか?

ヘンミ 今はけっこう多様化していて、自分の中である程度考えがまとまっていて、こういうことを表現したいということがあれば大丈夫かなとは思います。ただ、その時は裏側のことは任せなくてはいけないですね。

片岡 そうなったときに、なんて紹介されるかですよね。

ヘンミ そうなんですよね。私はどう紹介されるんだろう。ギャラリーによって色が違っていて、抽象画が選ばれやすいところとか、それこそ蜜蝋画のギャラリーもあるんですよ。今回はそこの方も来てくださるかもしれなくて。そこの方にこの絵を見せた時にどんな反応をされるんだろうって、楽しみでもあり恐怖でもあるという。でも未来は明るいなという感じです(笑)

片岡 たのしみです!

ヘンミ はい、ということでお時間になりました。最後に少し宣伝なんですけど、今回、フルーツのポストカードも作っていますので、こちらもよろしくお願いします。良い紙で作っています。今日はトークを聞いていただきどうもありがとうございました。

片岡&イシヅカ ありがとうございました。

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以上でトークの記録はおしまいです。トークの後に行われたパフォーマンスも、大変素晴らしいものでした。異次元体験という感じ。

ライブペインティングを最初から最後まで通しで観たのは初めてでしたが、「終わり」をめぐる緊張感があって、すごくスリリングで楽しかったです。

 

 

会期は明日28日までなので、今日を入れて残すところ2日です。

週末飲み足りない人は、晩酌がてら足を運んでみてはいかがでしょうか。