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やがて去りゆくための準備の書のような 夢眠ねむ『まろやかな狂気』(マーキー・インコーポレイティド、2016・11)

 夢眠ねむさんの『まろやかな狂気 夢眠ねむ作品集』(※以下、副題は割愛し『まろやかな狂気』とします)を読みました。とても読み応えのある本で、これはいい加減な感想を書くわけにはいかないなと思い、ゆっくり咀嚼して、消化していく感じで読みました。 

まろやかな狂気―夢眠ねむ作品集

まろやかな狂気―夢眠ねむ作品集

 

 

 私が夢眠さんを初めて観たのは、でんぱ組inc.(以下「でんぱ組」)が「future diver」をリリースしたくらいの時期でした。原宿にある(当時)ニコニコ本社でライブがあって、そこに勇気を出して行ったときのことを今でも鮮明に覚えています。スタジオの一角がライブ会場になっていて、ステージは設置されておらず、空間自体もあまり広くない(したがって、演者との距離が近い!)場所でライブが行われました。最前真ん中付近には、でんぱ組のライブに何度も来ていると思しき方々がスタンバイしていました。私は最前右端の辺りを確保して観たのですが、とにかく距離の近さに驚愕しました! アイドルのライブに行ったのがそもそも初めてだったし、手を伸ばせば簡単に触れられてしまうような近距離でライブを観たのもそれが初めてだったので、めちゃめちゃドキドキしました。でんぱ組のメンバーの皆さんは至近距離でもガッツリ目線を送ってくるし、全力で歌い踊るメンバーの汗の粒が一つ一つ見えるくらい近いし、夢眠さんは想像の1.5倍くらいスラッとした高身長なのにも驚いたし、たくさんの驚きとドキドキに襲われた時間でした。

 その後も、たぬぴよラジオにメールを送ったり、でんぱ組の掲載雑誌や出演番組をチェックしたり、CDを購入したりはしていましたが、その頃の私は完全な在宅オタでした。仕事をしながら大学院に通っていたので、社会人になった今よりも時間がなかったというのもありますが、アイドルのライブに通うことがすっかり生活習慣の中に根付いている現在の自分とはだいぶかけ離れた距離感で、アイドルの活動を追っていた一人でした。

 

 さて、『まろやかな狂気』についてですが、この本の主なコンテンツはMARQUEEで連載していた夢眠さんとMMMさんの対談です。この対談が全体の6割くらいを占めていて、連載当時は雑誌とwebで分割して発表されたいたものが、非常に読みやすい形で一冊に収録されました。そして、この本のために新たに語り起こされた、夢眠さんと福嶋麻衣子さんによる特別対談も収められていますそしてもう一つの目玉となるのが、夢眠さんがこれまで制作された美術作品やデザインたちの図版で、本の後半の方に綺麗で見やすい形で一挙に掲載されています。フルカラー!! 最後は、泰平氏による「夢眠ねむ論1.0」と題した論考が掲載されています。

 夢眠さんが毎回設定されていたという対談のテーマは、アイドルとしてのセルフプロデュースの仕方に関わる部分から始まって、演者側から見たライブ論や、秋葉原という場所について、はたまた最近自分がよく食べてるものを起点にしてアイドルの存在論について考えてみたりと、多岐にわたっています。しかし、いずれのテーマにおいても、軸にあるのは夢眠さんなりの「アイドル」をめぐる思索となっています。メタレベルの部分にガンガン切り込んでいくこの本は、「教材を作りたい」という想いから始まっていると、あとがきの中で夢眠さんは述べています。現役のアイドルが、「教材」「教科書」となることを企図した本を出すというのは、場合によっては、「何様だよ?」とか「傲慢だ」などと言われかねないことだと思うのですが、そうしたことは先刻承知の上だと思いますし、夢眠さんの「挑発的」と言ってもよい表現とその心意気に感動しました。

 

 この本は、他にも挑発的な企みに満ち溢れています。例えば本のオビの写真のチョイスにそれが現れています。オビの写真は、ネット上で賛否の嵐(「賛否」と書きましたが、心無い非難の方が多かった気がします)を巻き起こした、戦争反対のメッセージとともに掲載された写真と同じ衣装・同じ構図で撮られています。

 すでに吉田豪さんがご指摘されていますが、本の巻頭言も非常に挑発的で、「平等とかを掲げてくる人たちに、怯える事なく不平等に」という鮮烈な宣言が提示されています。

 また、それぞれの対談には連載回ごとにタイトルが付けられており、各回には扉絵も付いているのですが、それらのタイトルと扉のイラストとのちぐはぐな感じも、何とも言えず挑発的なのです。例えば、「ペンだこ」と題した回の扉には、何本かの矢をつかんでいる手のイラストが描かれています。ペンを持つ手の形に似てなくもないけれども、その手が持っているのは矢です。また、「名前」と題する回の扉には開いた状態の傘の絵が描かれています。「名前」という題名で、イラストは傘? ルネ・マグリットの「イメージの裏切り」(※パイプの絵の下に「これはパイプではない」と書かれている作品)を思い出さずにはいられない、奇妙な扉絵です。夢眠さんの表現活動を貫いている「曖昧な混乱」が、こうした細部にまで仕掛けられているのが、『まろやかな狂気』なのです。

 

 対談内容もとても刺激的で、でんぱ組が切り開いて「しまった」アイドル像への反省とか、アイドルの自分語りの功罪とか、ライブに臨む心構えの話とか、様々な話題について赤裸々に語られています。私は「自分の位置を知れ」と「偽物」の回が一番好きかもしれないです。もふくちゃんこと福嶋麻衣子さんとの対談では、もっと二人がズバズバ話している感じがあって、すごく面白かった! 特に、後進のアイドルたちにとっては耳の痛いような話も含まれていて、ちょっと刺激が強すぎるのではないかと思ったくらいです。お二人の、表現者としての矜持がめちゃめちゃ伝わる、説得力のある対談でした。

 

 『まろやかな狂気』を読んでいて、少し寂しくなった部分もありました。それは、夢眠さんが表舞台からの引き際のようなものを一度ならず考えているということ。これは当然といえば当然のことだと思いますし、私は、アイドルには辞める自由が保証されているべきだと考えていますけど、やっぱり大好きなアイドルの終わりを想像するのは少し切ないものですよね。でも、ライブ以外の表現を中心に活動する夢眠さんも見てみたいと思うし、どうなっても受け入れられる気がします。ご自身も「よく引退っぽいことを言っちゃう」自覚があるとのことなので(収録されている対談「夢眠ねむの弊害」より)、『まろやかな狂気』という本そのものが、壮大な「引退っぽいこと」を記した書になっていたとしたら、それはそれで彼女の言う「曖昧な混乱」が大成功しているということなのかもしれません。アイドルが行うあらゆる表現活動は、事後的に見れば、やがて去りゆくための準備であったということになるのだと思うし、全てはこれからの歴史だけが証明するのかもしれません。

 

 以上、なるべくネタバレを避ける形で感想を書いてみました。広く世間に届くような表現を志す人であれば、誰が読んでも素敵な「教科書」になってくれる一冊だと思います!!

 

発売前後のねむきゅんのツイート

 

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