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地下アイドルの現場が、そんなに「生臭い」場所であってほしいのか?(Eテレ「ねほりんぱほりん」地下アイドル・前編(2月1日放送分)の感想)

 「ねほりんぱほりん」観ました。もやもやせざるを得なかったです・・・。不愉快なものに対しては、とりあえずスルーしておけばいいだけの話なのかもしれないけれども、やっぱり一言書いておきたいと思いました。

 いろいろ言いたいことはありますが、まず、地下アイドルの多様性を捨象し過ぎであることが一番マズいんじゃないかということを指摘しておきたいです。70名以上に取材したということですが、その70名強はどのようにして選択されたのでしょう。個人でやっているか否かとか、集客規模とか、自前の音源の有無とか、全国流通盤の有無とか、本人のモチベーションの高低とか、ライブの頻度とか、地下アイドルを取り巻く環境を左右する関数は色々あるわけで、その辺のバランスは取れていたのだろうかと疑問を抱きました。70名強って地下アイドルの母数を考えたら少ないと思います(真面目に活動している地下アイドルたちからは、下品で失礼な取材が断られてしまったからそうなったのか、ハナからエグい話を聞けそうな人をチョイスして取材を行なったのかは分かりませんが・・・)。

 トークに参加している3名の子たちは、地下アイドルの世界の中でも、間違いなくいちばん深いところにいる子たちであるはずで、もう少し大きめの規模で面白いことをしているグループの存在が完全に無視されていることが理解できません。彼女たちだけをもってして、「地下アイドル」を代表させてしまうのはいかがなものでしょうか。例えば、アメリカの野球界の「マイナーリーグ」について語る際に、「ショートシーズンAクラス」のリーグだけを取り上げてすべてを語ったことになりますか? というかそもそも、トークの収録に参加していた3名の中に、(失礼な言い方になってしまいますが、)「自分の承認欲求をほどほどに満たす」以上のモチベーションでアイドルをやっていると思われる人が1人でもいましたか? もちろん、どのようなモチベーションで何を目的にアイドルをやっても、それは当人の自由だと思いますが、(だから彼女たちには何の罪もないのは当然として、)やはり制作サイドの人選の偏向性の醜さが見え隠れしていたと思います。適度にバズりそうな、過激な話が聞けそうな人をチョイスした感がむんむん。そりゃあ、「つながりの発覚」とかそういったことが、どこかで日々起きていますけども、そこはマジョリティではないですよ、と。

 また、事実関係の確認にも甘さがあると思いました。「手ブラチェキ」という言葉が一時的にかなりバズりましたが、結局彼女たちの証言の中にしかそれはない(※TL上で手ブラチェキを撮ったことがあるという人の写真が出回りましたが、それはAV女優出演のイベントで撮られたものであって、地下アイドル界隈のものではありませんでした)。もちろん、今のところは虚偽だとは断定できないでしょうし(かなり怪しいものですが・・・)、断定できない以上はそんなことは言うつもりもありません。そういったチェキの販売の仕方をしている人が実際にいるのかもしれません。しかし、今やかなり多様な「生態系」を持っている地下アイドルの世界の、最も深い地帯のそのまた辺境に存在する激レアケースであるというのが正味のところだと思います。その辺りがほとんど割り引かれないまま、高い影響力を持つメディアによって、その実在が確認されてすらいない「手ブラチェキ」が過剰にクローズアップされてしまったのは、上を向いて頑張っているすべての地下アイドルたちにとっても、彼女らを応援するオタクたちにとっても、不幸なことだと思いました。

 

 2月1日付で番組の公式ブログに掲載された「おまけ」のお粗末さについても。もっとみんな怒るべきだと思います。「★地下アイドルおまけ★ アイドルあるあるライブレポ」なるものが公開されていますが、地下アイドルがあまり関係ない「あるある」が多く入り混じった内容となっています。「”地下”アイドルあるある」とは題していないから、セーフなのかもしれないけれど、だったら「★地下アイドルおまけ★」なんていう文言はいらないと思う。広い意味では同様のカテゴリーに含まれるとはいえ、環境や事情が異なる界隈の「あるある」を載せる意味がそもそも全く分かりません。内容を見てみると、もちろん地下アイドルのライブでも起こりがちなことは含まれているけれども、1個目のあるあるに添えられたイラストにいきなり武道館が出てきていてズッコケました。なんで地下アイドル特集回のおまけなのに、「地下アイドルあるある」にしなかったんだろう。事実関係の正確性に繊細に気を遣うつもりが無い者が制作に関与していることの証左としか思えません。もしくは、取材の対象に対する愛やリスペクトが決定的に欠如している。いや、その両方か・・・。

ねほりんぱほりんブログ:NHK

 

 アイドルの世界は、スキャンダルの発生源としては、昔からかなり熱いスポットであったと思うし、好奇の眼差し・嫌悪の眼差し・怖いもの見たさの野次馬の眼差しが向けられやすい場所であるのは認めざるを得ないと思います。しかし、「ブーム」から「文化」へと移行しつつある現代のアイドルを取り巻く状況を、相も変わらずひたすらに「生臭い」場所としてのみ取り扱うのはちょっと心外です。

 唯一評価できるところがあるとしたら、冒頭の吉田豪さんのコメントをそのまま使ってくれたというところくらいでしょうか。アイドルの世界を網羅することの不可能性を、まぎれもない「有識者」の一人であるはずの豪さんが真摯に語ることの重み!

 もしかしたら、吉田豪さんのこの発言を冒頭に持ってくることでもって、「このあと登場する事例は普遍的なものではありません。なぜなら全体を見通すのは不可能ですから!」というエクスキューズにしようとしていたのかもしれないけれど、全然エクスキューズにはなっていないですよね・・・。後編ではストーカー問題とか恋愛事情にも切り込んでいくみたいですけど、社会全体に遍く存在しているはずの問題を「地下アイドル」という職業(?)の世界だけのものであるかのように取り扱うのだけはやめてほしいなあと願っています。普通の社会問題を、特定の職業・階層・趣味の共同体の問題のように錯覚させるようなことはしないと信じています。良いバランス感覚で一つお願いします!!

 

 

 「地下アイドルまとめブログ」さんも、一人歩きしてしまった「手ブラチェキ」について個別に記事を上げておられます。

地下アイドルまとめブログ 【悲報】ねほりんぱほりんで紹介された「アイドルの」手ブラチェキ、ドルヲタが誰も知らない(前にアップされた画像は、アイドルではないAV女優の方のものでした) 「アイドル現場で手ブラチェキとか聞いたこともないんだけど」

 

 地下アイドルのことをよく分かっていない、でもどんなものか興味がある!という方には、姫乃たまさんの書かれたこういう記事こそ読まれればいいなと思います。とても素敵な入門書。

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