おやすみホログラムのSFモチーフ楽曲と、3rdアルバム『・・・』(スリー)の構成の美しさについて
おやすみホログラムの曲には、SFちっくな歌詞を持つ曲がいくつかあります。そのものズバリなのが、SFの名作からタイトルを取っている「ニューロマンサー」(2ndアルバム『2』に収録)です。ハバナイの浅見北斗氏がおやホロに提供した「エメラルド」のアンサーソングであるこの曲は、「エメラルドグリーン」という色の名称を通じて、「エメラルド」と小説『ニューロマンサー』の両方とゆるやかにつながっています。
エメラルドグリーン エメラルドグリーン
エメラルドグリーン ダンスナンバー
「エメラルド」
エメラルド・グリーン。乳濁した翡翠色と壁を抜ける動き。これまで電脳空間の中で味わったことのないスピード感―テスィエ=アシュプールの氷は砕け、中国製プログラムの突進に、剥がれ落ちていく。
「エメラルド」の歌詞自体がもともとディストピアSF的なムードを漂わせているわけですが(「死んでゆく星を数えて」「滅びゆく街」といったフレーズがある。音楽業界の頽廃のメタファーのようにも見えるこの歌詞は、単体で解釈しても非常に興味深い)、そのアンサーソングのタイトルを「ニューロマンサー」にするセンスは本当に秀抜としか言いようがありません。浅見さんとオガワさんのどちらが先に、小説の『ニューロマンサー』に寄せて詞を書いたのかは分かりませんが、数あるSFの中でもギブスンの作品をチョイスしたのには、決して偶然ではないようにも感じます。というのも、おやすみホログラムとウイリアム・ギブスンには面白い符合点がもう一つあるからです。
ギブスンの作品の一つに『あいどる』というものがあります。日本が舞台になっており、日本のアイドルが登場する小説です。そのアイドルの設定が少々ユニークで、ホログラム(!)のアイドルであるという設定になっています。ホログラムというモチーフ自体は、SFのなかではそれほど珍しいものではありませんが、それを日本のアイドルと抱き合わせている点に面白さがあります。登場人物たちが新宿歌舞伎町を訪れる場面もあるのですが、そこでもおやすみホログラムの姿を思い出してしまいます(完全にヲタク脳になっているので、気が付けば、「その先を曲がってあと何分か歩けば新宿LOFTだよ!」といった脳内ガヤを送っている自分が・・・笑)。ストーリー自体はどうということのない作品で、『ニューロマンサー』の圧倒的な独創性とスケールから比べると小粒感は否めません。人気絶頂のバンドのメンバーが、ホログラムのアイドルとの結婚宣言をしたことから始まる小さな騒動を描いた小説です。
「ニューロマンサー」は2ndアルバム『2』に収められている曲ですが、SF的モチーフは続く3rdアルバム『・・・』にも引き継がれています。「sea song」は「ニューロマンサー」のその後を描いた歌詞を持っているということは、去年『・・・』の爆音試聴会の際にオガワさんの口から語られました。
これ「ニューロマンサー」の続編です。「ニューロマンサー」ってディストピアの街で、その街を出られずにいる人の話なんですけど、それを出てしまった人がどこに行ったのかっていうところの話なんですよ。「sea song」の「sea」って静かな海で、月の海っていう意味で、月面の歌なんです。これは。(2016/11/10『・・・』爆音試聴会@dues 新宿)
「sea song」の詞にもやはり、オガワさんの書く歌詞らしさが随所にあって、相変わらず「君」は不在です。非常に深い喪失・欠損に包まれています。他方で、「夜」が無いという点はオガワさんの歌詞からすると珍しい特徴であると言えます。おやすみホログラムの歌詞といえば、その多くが夜を舞台としている中で、「夜」そのものが無い場所が描かれるのは異例のことかもしれません。
ここにだってさ 時間はあってさ
星もあってさ でも夜は無くて
「sea song」
『・・・』の収録曲は全体的に、これまでの作品以上に深い喪失のムードが漂っています。明るい曲調を持つ「fairytale」はその曲調とは裏腹に、「僕」の深い孤独が歌われており、「friday」も同様のムードで満たされています。
君はいないな
僕はいるんだ
また離れて
探しもせずに
地図は燃やした
意味もなくした
どこに行こうか
「fairytale」
つかみたかった
つかめなかった
触りたかった
触れなかった
進みたかった
進めなかった
変わりたかった
変われたのかな
「friday」
「真昼のダンス」と「planet」は、ダンスを「踊る」というモチーフを共通して持っていますが、この2曲間に限らず、『・・・』収録曲の1曲目から4曲目までは、「連歌」のような感じで隣接する曲同士の間に共通したモチーフが含まれています。
僕はひどく浮かれては
笑うルーザー
気が触れた様だ
「fairytale」
仄暗い部屋でさ
気が触れそうでも
干からびるまで踊ろうか
「真昼のダンス」
よく晴れた日にダンスを
踊ってる夢を見てたよ
「planet」
僕はまだまだ夢の中にいる
「friday」
その後「sister」を挟んで、前作『2』収録の「ニューロマンサー」の続編とも言える「sea song」があり、最後に「empty page」を据えたアルバム構成は非常に美しいと思いました。「empty page」は『・・・』収録の前半4曲それぞれのテーマを一曲の中に全て含んでいるような曲になっていて、まさにアルバムの最後を飾るのにふさわしい曲です。「天使」が出てくるし(「fairytale」「planet」と同じ)、「踊る」という言葉も出てくるし(「真昼のダンス」と同じ)、「夜」を「泳ぐ」というオガワコウイチ作品ではおなじみのモチーフも出てきます(「friday」と同じ)。
・「天使」
それは僕のようでさ
僕のようじゃない
天使だったんだ
「empty page」
いつかの夜にもいた淡い天使が飛ぶ空
「fairytale」
だらしないあの天使が僕にそっと囁きかける
「planet」
・「踊る」
ただただ消えそうな声を聞いて僕らは踊り続けた
「empty page」
真っ昼間からあかり落として狭い部屋でダンス踊るだけ
「真昼のダンス」
・「夜」の液体的比喩による表象
ただこの消えそうな夜の中泳いだ
「empty page」
この部屋で泳ぎ疲れた僕らの手は
「friday」
3rdアルバム『・・・』は本当に名盤なので、もっともっと多くの人に聴かれればいいなと思います。オタクの市場は地盤沈下気味なので、新生バンド編成と共に是非海外でブレイクしてほしいなあ。ロシアの同志諸君に特にお願いしたい(笑) t.A.T.uを生んだ国には、女の子二人組のボーカルユニットを受け入れる土壌があると思うのです!
おやすみホログラムバンドセットDrifter@LIQUIDROOM20160917
2017.02.14 おやすみホログラム at 渋谷La.mama 【Be Our Valentine !!】
20170208 おやすみホログラム featuring 百瀬巡 / empty page (acoustic version) @下北沢laguna