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ひとつしかないものを、あえて数え上げてみること 笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)感想

 笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)を読みました。笹井氏の短歌、俳句、詩、エッセイが収録されています。解説は穂村弘氏です。

 ちなみに、私が買ったものには特典ペーパーが同封されていました。このペーパーには、先日『ダルちゃん』が新井賞を受賞した、漫画家のはるな檸檬さんによる手記「えーえん書く力をください」が掲載されています。『ダルちゃん』には『えーえんとくちから』が出てくる場面があるのですが、それも掲載されていました。

 それでは本の感想を書きたいと思います。やはり、タイトルが秀逸だと思いました。「これはいったい何のことだろう?」と思わずにはいられないタイトルは、収録されている短歌の一節です。最後まで読めば「永遠解く力」のことだと分かるのですが、私は最初「とくちから」の「くちから」の部分を「口から」と漢字変換してました。そして「えーえん」は「えんえん(延々)」のことかと思って、延々と短歌を紡ぎ出していく作者自身の自画像のことなのではないかと考えてしまっていました。笹井さんの短歌には、この他にも思考の回り道・寄り道を誘う作品がたくさんあって、刺激的な読書体験となりました。

 タイトルになった短歌も素敵ですが、生きることや食事にかかわる短歌に私は特にグッときました。一番好きなのは以下の2首。まず1首目。  

 

からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする

 

 この歌は、「いのち」の数をあえて数え上げているところが素敵だと思いました。命はひとつしか持てないということは当たり前なのですが、その当たり前を丁寧に確認して、言い聞かせてくれるような優しい作品だと思いました。いのちがあるからには水と食事を求めてよいし、水と食事をとったからにはそのまま生きていてよいのだと肯定してもらえるような気持ちになります。

 続いてもう一首。

 

いつかきっとただしく生きて菜の花の和え物などをいただきましょう

 

 こちらの歌には、「ただしく生き」るとは何だろう?ということを深く考えさせられました。身体表現性障害と闘っていた作者にとっては「健康な身体を持って生きる」ことだったのだろうかとか、翻って私たちにとってはどう生きることが「ただしい」のだろうかとか、そんなことを考えました。「菜の花の和え物」というチョイスも、好きです。

 歌集を読むのは久しぶりだったので、とても新鮮な気持ちで読めました。最後に読んだのは平岡あみと村木道彦でしたが、村木道彦氏の次の短歌も大好きな一首です。 

 

失恋のわれをしばらく刑に処すアイスクリーム断ちという刑

 

 この歌にも、生きることと食べることとの繋がりがあって、その中に、かわいらしさや哀しみや可笑しみが一つまみずつ入れられている感じがします。複雑な味のスープを飲んでいるような気持ちになって、胸に沁みます。

 

 『えーえんとくちから』、とても素敵な本でした。いろんな人のお気に入りの一首を聞いて回りたくなります! おすすめです。

 

 

えーえんとくちから (ちくま文庫)

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ダルちゃん: 1 (1) (コミックス単行本)

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ともだちは実はひとりだけなんです (Billiken books)

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村木道彦歌集 (現代歌人文庫 24)

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