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「呪い」を解くための祈りの書 木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社) 

 木村映里氏の『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)を読んだ。

 この本は、医療を享受する際に困難や障壁との直面を余儀なくされてしまう様々な人々について記されている。著者が見てきた、あるいは、身をもって体験した様々なケースに基づいて問題点を整理し、社会そのものや医療業界が孕んでいる構造上の欠陥の指摘も展開されていく。著者自身がどうしようもなく憤りを感じているであろう問題についても、実に冷静な筆致で分析が展開され、祈りや願いの言葉を添えながら読者へと問題点が提示される。柔らかで丁寧で謙虚な言葉選びがなされているので、一見すると、優しいように感じるが、鋭い刃のように胸をえぐる厳しさもしっかりと兼ね備えている。稀有な文体の持ち主である。

 高度に磨き抜かれた言葉たちは、医療の「外れ」を生み出す原因となってしまっている、多くの生活者に内面化された差別意識を顧みることを私たちに求める。同時に、完全に無知だった者や、無関心な振る舞いをしてきた者たちを叩き起こすための一撃にもなるだろう。

  セクシャルマイノリティ性風俗従事者、医療不信、自分の子どもを愛せない親、依存症、コロナ禍における医療従事者への差別などなど、本書の射程は非常に広い。バラバラなテーマに見えるけれども、いずれの問題にも共通しているのは、人間の恐怖心や無知がもたらす「呪い」なのだと感じた。医療従事者の不用意な言葉により、マイノリティの人々が医療を享受しようと思う気持ちを萎縮させてしまう呪い。親が子にかけてしまう呪い。レッテル貼りが招く思考停止と無知は、自身を善良な人間だと信じているような人であっても、いとも簡単に呪いをかける主体に変えてしまう。

  第5章では、医療に対する誤った認識を人々に植え付ける原因となってしまっているずさんな報道についても問題点が指摘されている。呪詛を拡散しまくっている昨今のメディアの報道の在り方も含めて色々なことを考えさせられた。脊髄反射的なさもしい共感に淫する振る舞いを恥じることのできる市民でありたい。

 著者の木村氏はずいぶん恐る恐る、このご著書を出されたようであるが、胸を張れる素晴らしい一冊であると私は思う。ところで、ゴールデン街などの繁華街での奇縁が、著者を多種多様な人々と結びつけたという。本の端々からそうした場所への深い愛着が感じられて、私もゴールデン街という場所が好きな人間なので、嬉しかった。とある飲み屋さんで、出版が決まったと言う著者に偶然お会いした時のおびえた様子が強く印象に残っている。単著デビューおめでとうございます。 

 

オマケ:『医療の外れで』を読みながら、思い出した本たち。

 

自分の過酷な経験を、まるで他人事を語るかのように記す冷静な文体に、姫乃たまさんを思い出した。  

潜行: 地下アイドルの人に言えない生活

潜行: 地下アイドルの人に言えない生活

 

 

 「戦い」の姿勢に共通するものを感じた。

洗礼ダイアリー

洗礼ダイアリー

 

 

 第4章を読みながらすぐに頭によぎったのがこだまさん。

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

 

  

 

医療の外れで: 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと

医療の外れで: 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと

 

 

八月ちゃんの進む道

 八月ちゃんがおやすみホログラムを卒業した。10月30日に「お知らせ」が出され、翌日に卒業。あっという間の出来事で理解が追い付かなかった。感傷に浸りたかったのだが、仕事の出張などに追われてしまい、そうした時間を味わう贅沢には恵まれなかった。今ようやくじんわりと寂しさが込み上げてきている。

 

 今回の卒業はある程度円満なものなのだと思う。メンバー3人がそれぞれコメントを出していることからもそれはうかがえる(喧嘩別れに見えないように精一杯努力をした結果に過ぎないのかもしれないけど。。。)。しかし、公式による通販の商品の引き上げの早さや、卒業翌日の11月1日にケロッと動き出した八月ちゃんのスピード感には、寂しさや驚きや安堵などがない交ぜになった複雑な感情を抱かずにはいられなかった。YouTubeで自己紹介をする八月ちゃんの言葉の中にはもう「おやすみホログラム」という単語は登場しなくて 、「ああ本当に卒業したんだな」という微かな実感を出張先のホテルで缶ビールと共に味わった。


【初めまして】八月ちゃんの八月宣言!!八月ちゃんネル【11月だけど】

 

 そんなスピード感も、八月ちゃんなりのサービス精神の表れなのだろうと思う。最速で姿を見せてくれたのだ。八月ちゃんは仕事をしていないと不安になるタイプだと思われるし、言い方を変えればせっかちさんなところがある。おやすみホログラムはある意味でとてもマイペースなユニットなので、サービス精神の発露の仕方が他の二人とは異なるタイプである八月ちゃんが違和感を感じてしまったのも仕方のないことだったのかもしれない。旺盛に活動している姿をこれからも見守っていきたい。

 おやホロの2人のことも、もちろん応援を続けていく。八月ちゃんの卒業によって、むしろ、オガワさんがこれまで書いてきた曲の説得力は増していくと思う。喪失によって完成するものもある。次なるステージで、もうここにはいない「君」の影と一緒に、また踊らせてほしい。

 

 おやすみホログラムと、八月ちゃんの進む道に幸多からんことを。

 

お気に入りの一枚

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【MV】おやすみホログラム「colors」 / OYASUMI HOLOGRAM [colors]


【MV】おやすみホログラム「ラストシーン」 (監督:川口潤)