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彼女たちのいるところが「劇場」になる 「The Documentary of WACK オーディション~オーケストラ物語~」感想

 7月6日の23時よりスペースシャワーTVでオンエアされた「The Documentary of WACK オーディション~オーケストラ物語~」(以下「オーケストラ物語」)を観ました。

 この番組は、今年の春先に行われたWACKオーディションの模様を、一時間ほどにまとめたドキュメンタリーです。春のオーディションはニコ生でノンストップで中継されていたのですが、ニコ生を観てるだけでは分からなかった、より深い部分を記録した映像がふんだんに盛り込まれた作品となっています。

 WACKオーディションのニコ生は、私もリアルタイムで視聴していましたが、あのニコ生では本当に断片しか映されていなかったのだなということがよく分かりました。 合宿オーディションの現場の空気が、どれだけ緊張感に満ちた重いものであったかを窺い知るとともに、このドキュメンタリーですら現場のヤバさをだいぶマイルドに濾過した映像なんだろうとも思いました。

 そういったことを考えてみると、昨年夏のBiSの合宿オーディションでニコ生に媚びている候補者を見て、カメラを回していたカンパニー松尾さんが裏で激怒したというエピソードもめちゃくちゃ納得しました。「そこ(ニコ生)は本番でも何でもないじゃん!」と、後日行われた『SiS消滅の詩』の大反省会のトークで熱弁されていたのですが、本当にその通りなんだろうなあ、と。 

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 さて、オーケストラ物語ですが、このドキュメンタリーはWACKの「事務所担当」を本気で作りにきている映像作品だと思いました! WACKオーディションを横浜赤レンガまで見届けた後に、私は一度感想を書いたことがあったのですが、そのときも、このオーディションはWACKの所属ユニットみんなを好きにさせるための企画だという所感を持ちました。

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 で、今回「オーケストラ物語」という形でまとめられたものを観てみて、やはり同じ感想を持ちました。オーケストラという楽曲を巡る物語として編集されているので、ややBiSHびいきな番組になっていることは否めません。しかし、多くの人に観てもらうための戦略としては、今のところ最もネームバリューを持っているBiSHにより多くスポットを当てるのは至極真っ当な作り方だと思います。 もちろん、訴求力などを度外視しても、オーケストラを巡る顛末はあの合宿の中で一番盛り上がった部分であったことは確かなので、焦点を当てたくなる気持ちはすごく分かります。

 しかし、ギャンパレのユアユユの物語に焦点を当てるだけでももう一本ドキュメンタリーを編集できそうな気もしました。今回の合宿が残酷だったのは、まだまだ若くて先輩たちから教わる立場であることの方が多いメンバーを指導者にしたことだと思います。ほとんど歳も変わらず、なんだったら自分よりも年上の候補者たちに指導をしなくてはいけないというのは、相当荷が重かったであろうことは、映像からもひしひしと伝わってきました。だからこそ日を追うごとに結束を高めていくユアユユの成長には本当に胸を打たれました。

 「オーケストラ」をめぐる物語の主役と言っても過言ではないアイナちゃんが、悩みぬきながら候補生の指導をする姿も健気でした。歌を歌っていないときのアイナちゃんはまさにナチュラルボーンアイドルといった感じで、頼りなくてポンコツな女の子なのに、先に控えている自分のライブのことも気にしつつ、あれだけの数の候補生を気遣いながら育てていくのはマジで大変だっただろうと思います。そのことは、BiSHメンバーが陣中見舞いに来た時に、アイナちゃんがメンバーにめちゃくちゃ甘えまくっていた姿からもうかがえました。

 ↓ニコ生視聴時に思わずスクショしてしまった、甘えん坊なアイナ・ジ・エンド。「お姉さん」でいなきゃいけないのって疲れるよね。それにしても、かわいい・・・

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 この合宿では、現役メンバーもユニットごとにチームに分かれて毎日ポイントを競い合ったわけですが、BiSチームがBiSHチームから「オーケストラ」を奪った瞬間というのは、プー・ルイの面目躍如でした。一番シーンがザワつく選択を分かってるし、それを避けるのは「ダメだから」と涙ながらに語ったシーンは、観ているこちらまで胸が痛みました。BiSHは途中で合宿を抜けるので、自力奪還が不可能になってしまうことがあらかじめ分かっていたため、そのあたりの残酷さも含めて、今回のドキュメンタリーの中心に据えられるべくして据えられた名シーンだと思います。そのあと、勝ち続けることで「オーケストラ」を返す権利を得ようと画策するところも非常にプー・ルイらしかった。「しっぽ」を預けてほしいというのは、彼女にしか言えない言葉ですよね!

  そして、そこで奮起したユアユユもめちゃくちゃよかった。自分たちが指導していかなければいけない候補生を抱えた状態で、オーディションの本来の目的はどうなるんだと思うのは至極当然だと思うし、合宿の目的が「オーケストラ」をBiSHに返すことだけになってしまうのはたしかにおかしい。しっぽを預かってポイントをかき集め、1位を取り続けて「オーケストラ」を返還しようとするのは、ある意味でプー・ルイの独善であるとも言えます。最後にBiSに勝って、BiSから「オーケストラ」を奪ったのには、新世代のパワーを感じさせられました。そしてこれがギャンパレの最近の勢いの原因に他ならないんだとも感じました。底を打つ経験をしている子たちは強い。「BiSの曲の時に良い表情をしていた」と言われて涙を流すユユちゃんを慰めるユアの姿は涙なしには見られなかった・・・。

 やはり、各ユニットの切磋琢磨と複雑な人間模様が見どころでした。孤立無援で合宿所での戦いを頑張ってきたアイナちゃんが、岩手でメンバーに涙ながらに自分の想いを語るシーンがすごく泣けました。プー・ルイプー・ルイでBiSHに対して複雑な思いを抱えているわけだし、ユユちゃんは一度BiS合宿に敗れた末にギャンパレに身を置いている立場であるわけで。彼女たちが、ただアイドルとして息をしているだけで、全てがドラマチックになっていくのが本当にすごいと思いました。それは、WACKがそれだけの歴史を積み重ねてきたことの証でもあるのだと思います。BiSHは「楽器を持たないパンクバンド」を自称していますが、WACKというチームは、「劇場を持たない歌劇団」のようなものになりつつあるのかもしれません。宝塚みたいに、それぞれの組にスターが育っている。彼女たちがいれば、その場所が「劇場」になっていく。そんな力を付けつつあるのかもしれません。世の中には自分たちの劇場を持っているアイドルがいるけども、みんな粉砕して世界を変えてほしい!!

 

 監督はエリザベス宮地さんでしたが、『SiS消滅の詩』での反省を踏まえてなのか、今作でも編集の仕方に色々と工夫を凝らしている印象を受けました。まず、渡辺淳之介をただひたすらカッコよく撮ることをやめていた。スタッフの伊藤さんをかなり激しく叱責する場面を入れていたし、みっともなく涙を流す場面もいれていました。今回、ナレーションにスタッフの伊藤さんを起用していましたが、そのあたりに宮地監督の優しさを感じました。「この激しく怒られている人は、いまも元気にやっているんだな」という安心感を持ちながら、激怒されているシーンを観ることができる(笑)

 また、現在の状況につながる場面を入れているのも憎かったです。アヤ・エイトプリンスが 「ギャンパレのダンス、カッコよく踊ってみたい」と発言した場面があったのですが、合宿終了後にギャンパレにトレードされた彼女の状況を知っている私たちは、そこでニヤリとしてしまう。それから、BiSHの楽曲の歌詞とリンクさせた映像表現もすごくエモくて素敵でした。宮地監督は青春映画の名手なのだなあ。私ももっと感情を爆発させて、大切なものを取りこぼさずに生きていかねばと、思いを新たにできました。

 そして最後はやはり映画の特報。「オーケストラ物語」は「The Documentary of WACK オーディション」と謳いつつもオーディション参加者は完全に脇役で、主役はすでにデビューしているメンバーたちでした。オーディション参加者のことをもっと知りたいという人や、そもそもオーディションを見逃していたという人は、映画館に足を運ぶしかないですね!!!

 そして、「オーケストラ物語」はリピート放送が18日の24時からなので、見逃した人は観るしかない!!