「断片」から壮大な物語を紡ぐこと 宙組公演「神々の大地」「クラシカル ビジュー」
東京宝塚劇場で宙組の公演「神々の大地」「クラシカル ビジュー」を観てきました。2階席でしたがかなり前の方の席だったので、たいへん見やすかったです。
「神々の大地」はロシア革命期のペトログラード(現・サンクトペテルブルグ)が舞台のお話しでした。ロシアびいきの私としては、終始胸の熱くなるお話でした。物語の主な舞台は、ペトログラードと、皇帝の離宮があったツァールスコエセローだったのですが、自分が訪れたことのある場所が物語に出てくると、それだけで嬉しい気持ちになれました。
ラスプーチンが、皇帝一族の堕落と政治の腐敗を招いた悪として描かれているのですが、彼の怪しさの演出の仕方が面白かったです。例えば、「ルパン三世 ロシアより愛をこめて」に出てきた「ラスプートン」(※ラスプーチンの孫という設定のキャラクター)みたいな感じの、これまでも様々なフィクションで繰り返し描かれてきたようなラスプーチンのカリカチュアを踏襲しています。しかし、愛月ひかるさんの熱演と見事なダンスで、怪しさの中にも宝塚らしい優美さやカッコよさをたたえていて、非常に素晴らしいキャラクターとして完成されていました。あの衣装であれだけ動けるってすごい。
主人公のドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフとフェリックス・ユスポフは、史実でもラスプーチンの暗殺を行った二人でしたが、今回の劇ではドミトリーが一人でラスプーチンの命を奪います。史実とは異なる展開ですが、この物語ではこの展開しかないだろうという物語上の必然がしっかりと構築されており、作演出の上田氏による作劇の力を見せつけられました。
ラスプーチンを殺害したところで、民衆から皇帝一家への不信と不満はどうにもできないほどに膨らんでおり、革命が「下」からの強いエネルギーで推し進められていくのですが、その場面での民衆のダンスも観ごたえ十分でした。ラスプーチンの幽霊が民衆とともに踊るという演出も素晴らしかった!!
今回の観劇とは全然関係なく、『オクトーバー 物語ロシア革命』を読んでいたところに、たまたま知り合いが「チケットあるけど、観る?」と誘ってくれたので、本当に良いタイミングでした。ロシア革命100周年の年にこの舞台を観られて感謝。
こちらの本は、革命勢力の覇権争いが事細かに描かれています。装丁もかっこいいし、おすすめです。かなり硬派な本ですが。
休憩をはさんで始まった「クラシカル ビジュー」もめちゃくちゃ良かったです。宝塚のレビューはいつ見ても素晴らしいインスピレーションを与えてくれます。今回のレビューは宝石をモチーフにして、様々な歌と踊りと、物語の断片を演じるのですが、ワンテーマで想像力が無限に膨らんでいく模様にとても感動しました。きっとこの世界には物語の断片はどこにでも転がっているのでしょうけれども、それを見事にすくい取り想像力/創造力で大きな結晶にしている感じ。宝石のように美しいスターたちと、数多の物語を生み出してきた宝塚歌劇団のクリエイティブの凄さに魅了されました。
断片的なものから大きな物語を想像させるというものが、私は昔から大好きでした。ビックリマンチョコしかり。私は、アイドルの活動をいま一番熱心に追いかけていますが、アイドルというのも、数多くこなしているライブは彼女たちの長い人生の一部分にすぎないんだけれども、やはりその断片的な時間の共有が、私たちに壮大な物語を夢想させてくれます。歌詞の何気ない言葉につながりを感じさせたり、時々ラジオなどのメディアで話された内容やトークイベントで話された内容にも、聴き手であるこちらが「連続性」を読み取ったり。送り手と受け手の織り成すテクストとしての歴史と物語が、芸能の魅力なのかもしれません。
宙組公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』初日舞台映像(ロング)
おやすみホログラムの楽曲は、すべての歌詞が同じ世界の中で起きている出来事であるということを、作詞作曲を務めるオガワコウイチ氏は繰り返し述べています。
【MV】おやすみホログラム「11」/ OYASUMI HOLOGRAM[11]
おやすみホログラム - Mother(Official Video / 日本語字幕)