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ヘンミモリ個展「表層/発生」トークの記録その1 1月21日(日)@ART SPACE BAR BUENA(ヘンミモリ、片岡フグリ、イシヅカユウ)

 1月21日(日)は、hachiことおやホロの八月ちゃんが、久しぶりに美術関連のイベントに出演しました。その時のレポートは当ブログに既に上げておりますが、私はこの日の夜、ART SPACE BAR BUENAにも足を運び、もう一つ別の個展を見に行きました。BUENAと言えば、八月ちゃんが働いていたこともあるお店ですね。 

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 この日見に行ったのは、ヘンミモリさんの個展です。ヘンミさんは蜜蝋を使った作品を中心に制作活動を行っているほか、果物をモチーフとしたグラフィックなども制作されています。また、ヘンミさんは2016年12月にも同店で個展を開いており、そのときは八月ちゃんが聞き手を務めたトークイベントも行われました。 

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 一人の作家さんの定点観測をするというのは面白いもので、以前の個展の時と比べてどのような変化を遂げているのかを楽しみにしながら、個展を見に行かせてもらいました。この日は初日ということで、トークイベントも行われました。エレファントノイズカシマシの片岡さんと、モデルのイシヅカユウさん、そしてヘンミモリさんのお三方でトークが繰り広げられました。禁止されていない限りは、トークの記録を取るというのがもうすっかり習慣になってしまっているので、今回も記録してしまいました。ブログに起こしてもよいという許可もいただきましたので、ここに残しておきたいと思います。充実したイベントで、分量がけっこう膨らみましたので、分割してお届けします。

 ヘンミさんは自分の創作スタンスについて的確に言語化できる方なので、今回もたいへん聴きごたえがありました。そこに、異なる分野で活動をしている二人が加わることで、面白い話がたくさん飛び出したと思います。

 すでに個展に足を運ばれた方や、これから個展に向かおうとされている方にとって、また、トークに登壇された皆様にとっても、何かしら有為な記録となりましたら幸いです。

 

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ヘンミ みなさん、お集まりいただきありがとうございます。個展を開催しているヘンミモリと申します。よろしくお願いいたします。今日は3人でトークをするということで、それぞれ自己紹介をさせていただきます。

片岡 このあとお二方と一緒にパフォーマンスもします、エレファントノイズカシマシという団体をやっております片岡フグリと申します。今日はよろしくお願いします。

イシヅカ モデルをやっております。イシヅカユウと申します。よろしくお願いします。

ヘンミ 去年も、ライブをやってトークをやったのかな。

片岡 そうですね。

ヘンミ 去年もエレファントノイズカシマシの皆さんにご協力いただいたんですけど、今回は順序を逆にしてみようということで、トークからスタートして、それからパフォーマンスに移ってみようかなと思います。私たちの人となりというか、考え方が分かってからパフォーマンスを見た方が面白いのではないかと思ったので、そういうふうにしました。基本的には今回の個展で発表している絵の作り方だったり、どういう気持ちで描いているのかという点をお二方に突っ込んでもらいながら話を進めていこうと思っています。よろしくお願いします。

片岡 こちらに「壁」という絵があるんですけど、「壁だな!」と思ったんです。ヘンミさんがやられているアンフォルメルという表現のジャンルは、壁のように見えるものや、シミのようなものに美を見出している。そこに、「壁」というタイトルが露骨につけられているわけですけど、なんか、顔みたいにも見えたりしますよね。タイトルというのは後付けで付けているものですか?

ヘンミ 後付けですね。全部。いま話に出てきたんですけれども、アンフォルメルという美術の一派がありまして、アメリカで抽象芸術のムーブメントがあった時に、ヨーロッパで生まれた運動がありました。デ・クーニングとかアントニ・タピエスという作家を生み出しています。私は、そこら辺の作家の絵がもともと好きで見ていました。そして、今のこういう絵になっていってるという感じですね。さっきの、タイトルが後付けであるという話に戻るんですけど、タイトルは基本的にそんなに意味のあることを言ってないんですよ。そもそも。例えばここにあるのは「壁B」ですし、一番入り口側にある二つの絵も「表層α」と「表層β」というすごくシンプルなタイトルにしてるんです。

片岡 それでも付けてるというのは、見た感じで「こういうものだ」としているということですか? 極端な話、全部「壁」にしたり「表層」にしたりしてもいいわけじゃないですか。何か付けているというところには意図はあるんですか?

ヘンミ 人が何かを知覚するときに、情報が多い方がいいと私は思っているんです。ただ、絵に関しては「この絵はこういう絵ですよ」という示唆をあまりしたくないんですね。例えば「壁」ではなくて「トイレの壁」と言ってしまうと皆さんが思い浮かべるような「トイレの壁」に見えるようにはなると思うんですけど、あまりに限定されすぎてしまう。だから、どこにでもあるような壁なんだけど、その絵を見た時に「これはこういう壁かな」と皆さんが想像してくださるような絵を描こうと思っていますし、そうなるようなタイトルを付けようとも思っています。

片岡 一応、壁として見るというのは一つの見方ということですか?

ヘンミ 一つの指針として示せるものを、今回はタイトルとして付けています。絵の中でなんとなくこれは十字架に見えるとか、傷に見えるというのは、あくまでも私が何となく示唆した一つに過ぎないんです。皆さんがどう思うかというのは、作品が私の手を離れてからのことであると思っているので、そこにまで自分が関わろうという気持ちは無いですね。

片岡 この前オペラシティで「韓国の抽象」という展示がやっていて、見に行ったんです。そこではけっこう分厚いテキストをもらったんです。作品そのものの解説というよりは、作家のパーソナリティみたいなことが詳しく書いてある本でした。手法や人となりや、作品の背景などが説明されていて、そうして作品の理解を深めていくというような形になっていました。でも、抽象絵画を見るときに、例えば、タイトルも見ずにヘンミさんのことも知らずに「これは良い形だ」と思って見るのも一つの見方ですよね。

ヘンミ そもそも、そこを目指そうと思っています。正直、私が描いていなくてもいいと思っていて、赤ちゃんが描いたものだとしても良いと思えるものがいいなと思っていて。名前とか地位や名声が無く、所属している団体のこととかも何もない状態。今日は、私はBUENAで展示をしているわけですけれども、そういったコンテクストもなくパッと作品を見せられた時に「何これカッコいい」って思われたいんです。あんまりパーソナリティは絵に投影してないし、もしかしたら投影されているのかもしれないけれど、投影しましたということは言わない。

イシヅカ 見方はその人次第っておっしゃってましたけど、この絵には上下はあるんですか? それも自由?

ヘンミ 上下は一応示唆していますね。いま飾られているこの向きが、作品の天地ですね。絵の見え方については、自分なりにある程度こうしてほしいというのはあるんですけど、どういう意味を持っているのかという「深層」の部分については、買った人や見ている人に想像を膨らませて欲しいです。

片岡 絵の向きや展示の仕方を規定しているということは、どこかではヘンミさんのセンスと合致する人に良いと思ってもらうことが望ましいと考えてこういう形でやっているんですか?

ヘンミ それは、もちろんそうですね。

片岡 作品を作ってそれが評価されるときに、子どもが描いたものだとしても、ということをおっしゃってましたけど、どこまで関与できるんですかね。作っている時に。

ヘンミ 去年もお話させていただいたことがあるんですけど、基本的には設計図のようなものを文章化して作るんです。赤を塗ったら、次は鉛筆で線を描いてというようなものですね。そのあとに制作に取り掛かるんですけど、やっぱり自分の思い通りには必ずしもいかないんですね。一応絵を描き続けてきているので、もちろん、設計図通りに行くときの方が多いです。でも、その中に遊びがあってもいいと思っています。例えばシミができてしまった場合に、そのシミを生かそうとするような、自由な自分の工夫を加える余地を残して制作をするようにしています。

片岡 けっこう事前の計画は立てているということなんですね。

ヘンミ 大枠のストーリー決めみたいなことはしているんですけど、それが悲劇になるのか喜劇になるのかというところは、もう任せるという感じです。

片岡 あと、少し話は変わるんですけど、いつも気になっていることがあって、絵画の制作をしている方というのはどこで完成というのを決めるんでしょうか。例えば、こうやって展示をして、レセプションみたいなものを開いて、色んな人に見てもらうという一つのゴールというものはあると思うんです。音楽をしている側からすると、作り上げてきたものを発表する場所としてライブというものがある。例えば今回のこの「壁」という抽象的なタイトルを持った作品が完成するのは、人と作品が出会った時なんですか? 

ヘンミ 音楽もそうだと思うんですけど、すごく簡潔に言ってしまえば、人に届いたらよいと思っています。「届く」というのは、所有してもらって飾ってもらうこと。その人の職場や自宅に飾られた瞬間に、作品として完成したということなのかなと。すごく商業的な在り方なんですけれども。今回出している作品というのは、今日できたばかりのものというわけではなくて、数か月だったり、長いものでは2年間だったりという制作期間を経たものなんです。「よし、できた!」となった瞬間に、自分の中では完結したものになっていて、終わってしまったけれども、人に見せて人の手に渡ることで、作品の見え方は変わってくる。その人の見方になって、その人が表現し始めるという状況になってくるのかなと思います。

イシヅカ ある意味ではずっと完成しないものなんですか?

ヘンミ そうですね。ある意味では完成はしないと思っていますね。イシヅカさんはモデルをされていますけど、モデルのお仕事においては、モデルさんが服を着た瞬間が完成の瞬間なんですか?

イシヅカ 一回服を着た時点でデザイナーさんにとってはその服の完成かもしれません。私としては、例えば、ファッションショーであれば、音楽や演出があって、服を着てその場に出て見てもらうことが完成だと思います。音楽とか、その場も含めた時間が。そのあとにはもう完成ではなくなってしまうというか、わりと刹那的な感覚が私の中にはあります。

ヘンミ その服が大量生産で、同じものがたくさん流通しているとして、例えば私とかが同じ服を着た時に、また私の中でその服を使った表現ができるみたいな?

イシヅカ 服は人に着てもらうことが大前提としてあるので、人がそれを着て日常生活を送ることに一つの完成があるのかな。ハンガーにかかって店頭に並んでいる時はまだ完成ではなくて。

ヘンミ うんうん。断続的に「完成」「完成´」……ってどんどん続いていくような感じがあるかも。ではここで、質問もはさんでいきましょうか。今までの話と関わることでも、そうでないことでも、質問があればお願いします。今日の感想でも全然いいので。よろしくお願いします。

(前回の個展と比べて、柔らかい印象の作品が増えたと思ったんですけど、環境の変化とかはあったんですか?)

ヘンミ 去年も展示をここでさせていただいたんですけど、去年は金属板を叩いて作るような、硬い質感の印象の絵が多かったと思います。私は蜜蝋を使った作品を作っているんですけど、蜜蝋と出会って、蜜蝋を使ってどんな表現ができるのだろうという実験的なところがありました。基本的にはけっこうゴツゴツしていましたね。今回はアクリル板に描いたりもしています。ゴツゴツしたものが必要なのかと自問自答して、薄めに蜜蝋を塗ってもいいんじゃないかということで制作したので、柔らかさが出てきているのかなと思います。ありがとうございます。

片岡 展示の仕方も、去年は少し違っていましたよね。

ヘンミ 去年は木製のパネルに紙を貼って、その上から作っていました。

イシヅカ よくある感じのやつですよね。今回初めてこういうアクリルに描いてあるような形の絵を見ました。すごく新鮮に思ったんですけど、こういう展示の仕方はよくあることなんですか?

ヘンミ こういう展示の仕方は私もあんまり見たことなくて、自分でも作っていて「これは本当に正しいのだろうか」という思いはありました。一番かっこいいと思って作ってはいるんですけど、自分の主観でしかないので、人に見せないと分からない。この展示の仕方が本当に良いのか悪いのかが分からなかったんです。頭の中でシミュレーションして、自分の部屋でもシミュレーションして、カッコいいなと思ってそのまま持ってきたんですけど、掛け軸みたいな感じにも見えてきて、功を奏したんじゃないかなと思いますね。

片岡 うん、掛け軸みたいだよね。

ヘンミ つまりは、額縁が嫌いっていう病気みたいなのがあって(笑) 私は額を付けることがめちゃくちゃ嫌いなんですよね。なんでかって言うと、絵がそこで留まってしまうんじゃないかという謎の強迫観念みたいなものがあって。塞がって退路が断たれて、絵の逃げ場所がなくなってしまうような感じに見えてしまうんですよ。四方を囲んだことで、絵の居場所が無くなるみたいな。

片岡 (今回の展示の仕方だと)壁に近づいた感じがしますよね。

ヘンミ 本当はアクリル板をそのまま展示したらいいんですけど。

片岡 それも多分一つのやり方かなって言う気がします。いろんな投影を見る人がしやすくなる状態に近づく気がします。

ヘンミ 展示の仕方で、他に考えたこととしては、アクリル板に穴をあけて紐を通そうと思ったんです。でも、私が今回の個展で目指しているのって、作品を人に見てもらい、気に入ったら購入してもらい、そしてその人がお家に飾るというところまでなんです。そうすると、アクリル板に穴をあけてしまってそれを購入者に渡したとして、買った人は「どうすればいいんだ」ということになってしまうのかなと思いました。そこは好きにしてもらえればいいんですけど、こういう飾り方があるという一例は、ある程度出そうかなと思ったんです。アクリル板に穴をあけてしまったら、それで終わってしまうんですよね。今回はこういう掛け軸スタイルもありますという提案をしています。

片岡 やっぱり、商品というかアンティークというか、そいうものを目指して作られているということなんですかね。部屋に飾る前提というか。ヘンミさんは暮らしの中で、「この床の感じは良いな」と思うようなことはあるんですか?

ヘンミ ありますね。めちゃくちゃあります。

片岡 できればこれを切り取って持っていきたい、みたいな。

ヘンミ そうですね。抽象画の話を最初にしておいてアレなんですけど、私の中でもちぐはぐで、まだ整理がつかないところがあって、私自身には自分が抽象画を描いているという認識は無いんです。壁が好きだったり、コンクリートの割れ目が好きだったりする自分がいて、その写真を撮ってトリミングをしたら、自分の主観でできる作品みたいになるじゃないですか。それにけっこう感覚が似ているんです。どこかに実在するようなものをトリミングしているような感じなんです。それはたぶん自分の心象風景に近いので、抽象画と呼びうるものではあると思うんですけど、ミクロに寄った何かの物質を描いているというイメージです。

片岡 それを聞くと、この作品たちは、iphoneで何かの写真を撮ったみたいにも見えてきますね。今の時代だと、カメラ機能を使って目の前にあるものを切り取るときに、ピントも合わせずに撮ることができるし。

つづく・・・

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続きはまた後日まとめたいと思います。

ヘンミさんの個展は1月28日までの開催です。ご興味のある方は、是非に。

おいしいお酒を楽しみながら、アートに浸ってみてはいかがでしょう。