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超貴重な講義録! さやわか、西島大介ほか『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』(ゲンロン)感想

『マンガ家になる! ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第1期講義録』を読みました。こちらの書籍は、株式会社ゲンロンが開設したマンガ家育成スクール「ひらめき☆マンガ教室」で行われた講義をまとめたものです。

 ゲスト講師陣がたいへん豪華です。横槍メンゴTAGROこうの史代武富健治コヤマシゲト江口寿史田亀源五郎今井哲也師走の翁、横山了一、ヤマシタトモコ伊藤剛といった顔ぶれ。彼らがどのような志で漫画やイラストの仕事を始め、どのように創作のエネルギーや技術を磨き蓄えてきたのかを垣間見ることができます。

 それだけでも十分に価値ある一冊なのですが、苦しい時や行き詰った時のお話が特に胸に響きました。例えば、こうの史代さんのこの言葉。

「こんなのだれが読むんだろう」という気持ちは、自分が楽をしたいからそう思いたいだけなんだと思ってください。

 ズシンときます(笑) なんだかんだ言いわけを作って作品を完成させないよりも、とにかく書ききって、それを社会に送り出すことからすべてが始まるのだと思いました。

 それから、第一線で活躍されている作家さんは、例外なく技術の「密輸」がお上手なのだということが分かりました。ネームの模写をしているという師走の翁さんや、海外の優れた作家の技を積極的に取り入れながら技術を磨いてきた江口寿史さん。良いものをどんどん吸収して自分の技術を磨いていくための「構え」は、漫画の表現を向上させるためだけに限らず、あらゆる職業人にとって大切な姿勢なのだと思います。役に立つか立たないかがあらかじめ決まっている事物なんてないんだと教えてくれる。

 また、作家さんごとに異なる語りの個性も楽しめました。武富健治さんと師走の翁さんはとても理論派という印象。こうの史代さんは自分なりの職業倫理のようなものをしっかりと確立されていてカッコよかった。ヤマシタトモコさんは、自分がどのように見られるかをめちゃくちゃコントロールしていて、これぞプロといった感じ。ヤマシタ氏の章は、おそらく文字起こし原稿を後からだいぶ整えているっぽく見えるのですが、作家が自身のセオリーをこれだけ丁寧に示している本というのはなかなか無いと思います。本当に貴重なゼミナールです。

 この本では、「絵の描き方」についての具体的な技術はいったん脇に置かれている印象がありますが、その点にこそ本書の魅力があると思いました。絵の技術を教える本なら他にもいろいろあるけれど、(スクールの名前にもある)「ひらめき」の部分を教えてくれる本は他に無い。この「ひらめき」という言葉は非常に抽象的で、捉えにくいところもありますが、「自己を更新し続ける姿勢」「描き切る覚悟」などの精神的な面も含めた、自分の持ち味を形成していくための発想法みたいなものとして私は解釈しました。

「ひらめき☆マンガ学校」からは、デビューをゴールとしてしまうことのない逞しい作家を育てようとする心意気が感じられます。デビュー後の「モチベーションの維持の仕方」だとか「孤独に耐えて自分を磨き続ける生き方」を教えることは相当困難だけど、あえてそこに立ち向かおうとする熱意がある気がして、だから読み物として惹きつけられるのだと思います。

 ただ、「ひらめき」という言葉の取り扱いには講師陣も苦労していたようです。巻末の座談会では、「『ひらめき』という言葉が逃げ道を用意したところがあると思う」という鋭い指摘を東浩紀氏がしています。この課題に2期目ではどのように立ち向かっているのか、注目していきたいと思いました。

 マンガに限らず、何かを表現したい人にとって必読の書になると感じました。読んだ後に勇気が湧いてきます。