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ヘンミモリ個展「表層/発生」トークの記録その1 1月21日(日)@ART SPACE BAR BUENA(ヘンミモリ、片岡フグリ、イシヅカユウ)

 1月21日(日)は、hachiことおやホロの八月ちゃんが、久しぶりに美術関連のイベントに出演しました。その時のレポートは当ブログに既に上げておりますが、私はこの日の夜、ART SPACE BAR BUENAにも足を運び、もう一つ別の個展を見に行きました。BUENAと言えば、八月ちゃんが働いていたこともあるお店ですね。 

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 この日見に行ったのは、ヘンミモリさんの個展です。ヘンミさんは蜜蝋を使った作品を中心に制作活動を行っているほか、果物をモチーフとしたグラフィックなども制作されています。また、ヘンミさんは2016年12月にも同店で個展を開いており、そのときは八月ちゃんが聞き手を務めたトークイベントも行われました。 

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 一人の作家さんの定点観測をするというのは面白いもので、以前の個展の時と比べてどのような変化を遂げているのかを楽しみにしながら、個展を見に行かせてもらいました。この日は初日ということで、トークイベントも行われました。エレファントノイズカシマシの片岡さんと、モデルのイシヅカユウさん、そしてヘンミモリさんのお三方でトークが繰り広げられました。禁止されていない限りは、トークの記録を取るというのがもうすっかり習慣になってしまっているので、今回も記録してしまいました。ブログに起こしてもよいという許可もいただきましたので、ここに残しておきたいと思います。充実したイベントで、分量がけっこう膨らみましたので、分割してお届けします。

 ヘンミさんは自分の創作スタンスについて的確に言語化できる方なので、今回もたいへん聴きごたえがありました。そこに、異なる分野で活動をしている二人が加わることで、面白い話がたくさん飛び出したと思います。

 すでに個展に足を運ばれた方や、これから個展に向かおうとされている方にとって、また、トークに登壇された皆様にとっても、何かしら有為な記録となりましたら幸いです。

 

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ヘンミ みなさん、お集まりいただきありがとうございます。個展を開催しているヘンミモリと申します。よろしくお願いいたします。今日は3人でトークをするということで、それぞれ自己紹介をさせていただきます。

片岡 このあとお二方と一緒にパフォーマンスもします、エレファントノイズカシマシという団体をやっております片岡フグリと申します。今日はよろしくお願いします。

イシヅカ モデルをやっております。イシヅカユウと申します。よろしくお願いします。

ヘンミ 去年も、ライブをやってトークをやったのかな。

片岡 そうですね。

ヘンミ 去年もエレファントノイズカシマシの皆さんにご協力いただいたんですけど、今回は順序を逆にしてみようということで、トークからスタートして、それからパフォーマンスに移ってみようかなと思います。私たちの人となりというか、考え方が分かってからパフォーマンスを見た方が面白いのではないかと思ったので、そういうふうにしました。基本的には今回の個展で発表している絵の作り方だったり、どういう気持ちで描いているのかという点をお二方に突っ込んでもらいながら話を進めていこうと思っています。よろしくお願いします。

片岡 こちらに「壁」という絵があるんですけど、「壁だな!」と思ったんです。ヘンミさんがやられているアンフォルメルという表現のジャンルは、壁のように見えるものや、シミのようなものに美を見出している。そこに、「壁」というタイトルが露骨につけられているわけですけど、なんか、顔みたいにも見えたりしますよね。タイトルというのは後付けで付けているものですか?

ヘンミ 後付けですね。全部。いま話に出てきたんですけれども、アンフォルメルという美術の一派がありまして、アメリカで抽象芸術のムーブメントがあった時に、ヨーロッパで生まれた運動がありました。デ・クーニングとかアントニ・タピエスという作家を生み出しています。私は、そこら辺の作家の絵がもともと好きで見ていました。そして、今のこういう絵になっていってるという感じですね。さっきの、タイトルが後付けであるという話に戻るんですけど、タイトルは基本的にそんなに意味のあることを言ってないんですよ。そもそも。例えばここにあるのは「壁B」ですし、一番入り口側にある二つの絵も「表層α」と「表層β」というすごくシンプルなタイトルにしてるんです。

片岡 それでも付けてるというのは、見た感じで「こういうものだ」としているということですか? 極端な話、全部「壁」にしたり「表層」にしたりしてもいいわけじゃないですか。何か付けているというところには意図はあるんですか?

ヘンミ 人が何かを知覚するときに、情報が多い方がいいと私は思っているんです。ただ、絵に関しては「この絵はこういう絵ですよ」という示唆をあまりしたくないんですね。例えば「壁」ではなくて「トイレの壁」と言ってしまうと皆さんが思い浮かべるような「トイレの壁」に見えるようにはなると思うんですけど、あまりに限定されすぎてしまう。だから、どこにでもあるような壁なんだけど、その絵を見た時に「これはこういう壁かな」と皆さんが想像してくださるような絵を描こうと思っていますし、そうなるようなタイトルを付けようとも思っています。

片岡 一応、壁として見るというのは一つの見方ということですか?

ヘンミ 一つの指針として示せるものを、今回はタイトルとして付けています。絵の中でなんとなくこれは十字架に見えるとか、傷に見えるというのは、あくまでも私が何となく示唆した一つに過ぎないんです。皆さんがどう思うかというのは、作品が私の手を離れてからのことであると思っているので、そこにまで自分が関わろうという気持ちは無いですね。

片岡 この前オペラシティで「韓国の抽象」という展示がやっていて、見に行ったんです。そこではけっこう分厚いテキストをもらったんです。作品そのものの解説というよりは、作家のパーソナリティみたいなことが詳しく書いてある本でした。手法や人となりや、作品の背景などが説明されていて、そうして作品の理解を深めていくというような形になっていました。でも、抽象絵画を見るときに、例えば、タイトルも見ずにヘンミさんのことも知らずに「これは良い形だ」と思って見るのも一つの見方ですよね。

ヘンミ そもそも、そこを目指そうと思っています。正直、私が描いていなくてもいいと思っていて、赤ちゃんが描いたものだとしても良いと思えるものがいいなと思っていて。名前とか地位や名声が無く、所属している団体のこととかも何もない状態。今日は、私はBUENAで展示をしているわけですけれども、そういったコンテクストもなくパッと作品を見せられた時に「何これカッコいい」って思われたいんです。あんまりパーソナリティは絵に投影してないし、もしかしたら投影されているのかもしれないけれど、投影しましたということは言わない。

イシヅカ 見方はその人次第っておっしゃってましたけど、この絵には上下はあるんですか? それも自由?

ヘンミ 上下は一応示唆していますね。いま飾られているこの向きが、作品の天地ですね。絵の見え方については、自分なりにある程度こうしてほしいというのはあるんですけど、どういう意味を持っているのかという「深層」の部分については、買った人や見ている人に想像を膨らませて欲しいです。

片岡 絵の向きや展示の仕方を規定しているということは、どこかではヘンミさんのセンスと合致する人に良いと思ってもらうことが望ましいと考えてこういう形でやっているんですか?

ヘンミ それは、もちろんそうですね。

片岡 作品を作ってそれが評価されるときに、子どもが描いたものだとしても、ということをおっしゃってましたけど、どこまで関与できるんですかね。作っている時に。

ヘンミ 去年もお話させていただいたことがあるんですけど、基本的には設計図のようなものを文章化して作るんです。赤を塗ったら、次は鉛筆で線を描いてというようなものですね。そのあとに制作に取り掛かるんですけど、やっぱり自分の思い通りには必ずしもいかないんですね。一応絵を描き続けてきているので、もちろん、設計図通りに行くときの方が多いです。でも、その中に遊びがあってもいいと思っています。例えばシミができてしまった場合に、そのシミを生かそうとするような、自由な自分の工夫を加える余地を残して制作をするようにしています。

片岡 けっこう事前の計画は立てているということなんですね。

ヘンミ 大枠のストーリー決めみたいなことはしているんですけど、それが悲劇になるのか喜劇になるのかというところは、もう任せるという感じです。

片岡 あと、少し話は変わるんですけど、いつも気になっていることがあって、絵画の制作をしている方というのはどこで完成というのを決めるんでしょうか。例えば、こうやって展示をして、レセプションみたいなものを開いて、色んな人に見てもらうという一つのゴールというものはあると思うんです。音楽をしている側からすると、作り上げてきたものを発表する場所としてライブというものがある。例えば今回のこの「壁」という抽象的なタイトルを持った作品が完成するのは、人と作品が出会った時なんですか? 

ヘンミ 音楽もそうだと思うんですけど、すごく簡潔に言ってしまえば、人に届いたらよいと思っています。「届く」というのは、所有してもらって飾ってもらうこと。その人の職場や自宅に飾られた瞬間に、作品として完成したということなのかなと。すごく商業的な在り方なんですけれども。今回出している作品というのは、今日できたばかりのものというわけではなくて、数か月だったり、長いものでは2年間だったりという制作期間を経たものなんです。「よし、できた!」となった瞬間に、自分の中では完結したものになっていて、終わってしまったけれども、人に見せて人の手に渡ることで、作品の見え方は変わってくる。その人の見方になって、その人が表現し始めるという状況になってくるのかなと思います。

イシヅカ ある意味ではずっと完成しないものなんですか?

ヘンミ そうですね。ある意味では完成はしないと思っていますね。イシヅカさんはモデルをされていますけど、モデルのお仕事においては、モデルさんが服を着た瞬間が完成の瞬間なんですか?

イシヅカ 一回服を着た時点でデザイナーさんにとってはその服の完成かもしれません。私としては、例えば、ファッションショーであれば、音楽や演出があって、服を着てその場に出て見てもらうことが完成だと思います。音楽とか、その場も含めた時間が。そのあとにはもう完成ではなくなってしまうというか、わりと刹那的な感覚が私の中にはあります。

ヘンミ その服が大量生産で、同じものがたくさん流通しているとして、例えば私とかが同じ服を着た時に、また私の中でその服を使った表現ができるみたいな?

イシヅカ 服は人に着てもらうことが大前提としてあるので、人がそれを着て日常生活を送ることに一つの完成があるのかな。ハンガーにかかって店頭に並んでいる時はまだ完成ではなくて。

ヘンミ うんうん。断続的に「完成」「完成´」……ってどんどん続いていくような感じがあるかも。ではここで、質問もはさんでいきましょうか。今までの話と関わることでも、そうでないことでも、質問があればお願いします。今日の感想でも全然いいので。よろしくお願いします。

(前回の個展と比べて、柔らかい印象の作品が増えたと思ったんですけど、環境の変化とかはあったんですか?)

ヘンミ 去年も展示をここでさせていただいたんですけど、去年は金属板を叩いて作るような、硬い質感の印象の絵が多かったと思います。私は蜜蝋を使った作品を作っているんですけど、蜜蝋と出会って、蜜蝋を使ってどんな表現ができるのだろうという実験的なところがありました。基本的にはけっこうゴツゴツしていましたね。今回はアクリル板に描いたりもしています。ゴツゴツしたものが必要なのかと自問自答して、薄めに蜜蝋を塗ってもいいんじゃないかということで制作したので、柔らかさが出てきているのかなと思います。ありがとうございます。

片岡 展示の仕方も、去年は少し違っていましたよね。

ヘンミ 去年は木製のパネルに紙を貼って、その上から作っていました。

イシヅカ よくある感じのやつですよね。今回初めてこういうアクリルに描いてあるような形の絵を見ました。すごく新鮮に思ったんですけど、こういう展示の仕方はよくあることなんですか?

ヘンミ こういう展示の仕方は私もあんまり見たことなくて、自分でも作っていて「これは本当に正しいのだろうか」という思いはありました。一番かっこいいと思って作ってはいるんですけど、自分の主観でしかないので、人に見せないと分からない。この展示の仕方が本当に良いのか悪いのかが分からなかったんです。頭の中でシミュレーションして、自分の部屋でもシミュレーションして、カッコいいなと思ってそのまま持ってきたんですけど、掛け軸みたいな感じにも見えてきて、功を奏したんじゃないかなと思いますね。

片岡 うん、掛け軸みたいだよね。

ヘンミ つまりは、額縁が嫌いっていう病気みたいなのがあって(笑) 私は額を付けることがめちゃくちゃ嫌いなんですよね。なんでかって言うと、絵がそこで留まってしまうんじゃないかという謎の強迫観念みたいなものがあって。塞がって退路が断たれて、絵の逃げ場所がなくなってしまうような感じに見えてしまうんですよ。四方を囲んだことで、絵の居場所が無くなるみたいな。

片岡 (今回の展示の仕方だと)壁に近づいた感じがしますよね。

ヘンミ 本当はアクリル板をそのまま展示したらいいんですけど。

片岡 それも多分一つのやり方かなって言う気がします。いろんな投影を見る人がしやすくなる状態に近づく気がします。

ヘンミ 展示の仕方で、他に考えたこととしては、アクリル板に穴をあけて紐を通そうと思ったんです。でも、私が今回の個展で目指しているのって、作品を人に見てもらい、気に入ったら購入してもらい、そしてその人がお家に飾るというところまでなんです。そうすると、アクリル板に穴をあけてしまってそれを購入者に渡したとして、買った人は「どうすればいいんだ」ということになってしまうのかなと思いました。そこは好きにしてもらえればいいんですけど、こういう飾り方があるという一例は、ある程度出そうかなと思ったんです。アクリル板に穴をあけてしまったら、それで終わってしまうんですよね。今回はこういう掛け軸スタイルもありますという提案をしています。

片岡 やっぱり、商品というかアンティークというか、そいうものを目指して作られているということなんですかね。部屋に飾る前提というか。ヘンミさんは暮らしの中で、「この床の感じは良いな」と思うようなことはあるんですか?

ヘンミ ありますね。めちゃくちゃあります。

片岡 できればこれを切り取って持っていきたい、みたいな。

ヘンミ そうですね。抽象画の話を最初にしておいてアレなんですけど、私の中でもちぐはぐで、まだ整理がつかないところがあって、私自身には自分が抽象画を描いているという認識は無いんです。壁が好きだったり、コンクリートの割れ目が好きだったりする自分がいて、その写真を撮ってトリミングをしたら、自分の主観でできる作品みたいになるじゃないですか。それにけっこう感覚が似ているんです。どこかに実在するようなものをトリミングしているような感じなんです。それはたぶん自分の心象風景に近いので、抽象画と呼びうるものではあると思うんですけど、ミクロに寄った何かの物質を描いているというイメージです。

片岡 それを聞くと、この作品たちは、iphoneで何かの写真を撮ったみたいにも見えてきますね。今の時代だと、カメラ機能を使って目の前にあるものを切り取るときに、ピントも合わせずに撮ることができるし。

つづく・・・

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続きはまた後日まとめたいと思います。

ヘンミさんの個展は1月28日までの開催です。ご興味のある方は、是非に。

おいしいお酒を楽しみながら、アートに浸ってみてはいかがでしょう。

 

 

 

8hachiふたたび 1月21日(日)@Kanzan Gallery中島由夫のアッサンブラージュ展トークショー(中島由夫、hachi、小川希)

www.cinra.net

 

 現在、kanzan galleryで開催中の、芸術家の中島由夫さんのアッサンブラージュ展にて、hachiこと八月ちゃんのミニライブとトークイベントが行われました。中島由夫さんは60年代から海外に飛び出して活動を続けてきた画家です。日本ではまだ知る人ぞ知る作家さんではありますが、近年日本でも「発見」され、それまでの活動が明らかにされつつある方です。今年は彼のドキュメンタリー映画の公開に向けた動きもあるとのことです。中島さんについては、上記リンクのインタビューに詳しいので、そちらをご参照ください。

 中島由夫さんは、以前も新宿ロフトで一緒にパフォーマンスをしたことのある方で、この日は初めてトークもご一緒することとなりました。

 ミニライブでは、オガワさんがギターを演奏し、八月ちゃんがおやすみホログラムの曲と、オガワさんのソロ曲のカバーを披露しました。この日の八月ちゃんは「hachi」としての出演なので、三つ編みではない髪型で登場しました。

八月ちゃんではなく、hachi!

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さっそく映像を残している方が!

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 ライブの後はそのまま中島由夫さんによるパフォーマンスが始まり、オガワさんと八月ちゃんもその場に残って、パフォーマンスに参加しました。

アッサンブラージュと化した八月ちゃん

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パフォーマンス終了後の3人

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 そしてパフォーマンスの終了後にトークが始まりました。中島由夫さんと、hachiちゃんと、小川希さんの3名によるトークです。小川希さんは、以前hachiちゃんがパフォーマンス8と題した催しを行なった、吉祥寺にあるアートセンターOngoingの代表を務めている方で、トークをしたこともありました。

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 中島由夫さんを囲んで行われたトークの記録を以下に残しておきたいと思います。主役の中島由夫さんとはいったい何者なのか。その一端を垣間見ることのできるトークであったと思います。おやホロのファンの方にももちろん、お楽しみいただければと思います。

 

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小川 よろしくおねがいします。小川と申します。今日は中島さんの個展にお招きいただいて、八月ちゃんが出るというのは昨日知らされたんですけど、開場に来たら作品にされていたから驚きました。展覧会の話をする前に、八月ちゃんと中島さんのつながりに関してや、僕がどこで知り合ったかという話をしようと思います。八月ちゃんは中島さんと初めてお会いしたのはいつでしたか?

八月 そうですね、たぶん2014年ですね。アツコバルーというギャラリーで中島さんがパフォーマンスをされたことがあって、そのときに5人くらいパフォーマーが必要だということで、私もそのうちの一人として参加させてもらいました。それが中島さんとの初めての出会いでした。ぐるぐる巻きになったり、後は般若心経を使ったパフォーマンスでした。

小川 僕が社会人向けにやっているアートの学校があって、安部さんがそこに生徒として来てて、どうしても展覧会を企画してやりたいアーティストがいるということを強く言っていて、それが中島さんだったんです。それで中島さんを紹介していただいて、安部さんがやりたいと言っていたことも実現することになったんです。僕が中央線沿線でやっているアートプロジェクトに中島さんをお招きしてライブペイントをやってもらったということもありました。あれは4年か5年くらい前ですよね? それから東京で作品が展示されるときには、見に行ってお話させていただいたりしているという関係です。今日はアッサンブラージュ展ということで、アッサンブラージュに絞って、それらが一堂に会したものを見られるということで、非常に楽しみにしていました。作品は一通り見させていただいたんですけど、今回はいつごろから制作されたものを展示しているんですか?

中島 日本に来るとさ、何かしたくてしょうがないのね。パフォーマンスをやってもだれもついてこないし。小さなアトリエを持っていて、その外で描いているんですね。描いたら放っておいて、また1年か2年経ってその上にまた塗って。この作品はいま出来上がって、色は綺麗に見えるけど、古いものになると10年以上前のものもある。収蔵する場所も少ないんだけど、描いてきていて、ここのアトリエの人がそれを見ちゃったんですね。家に入るとぼーんと山のように置いてあるから。それで、「どこかで発表した?」って言われたんだけど、全然発表してなかった。それで、急にこういう形になっちゃった。「急いで発表した方がいいよ」って言うんで、僕はとりあえず「このまんまでいいよ」って言って、トラックで2回くらい運んで、その中の一部です。これが良いか悪いかは分かんないけど。題名も値段もね、題名は一応あるんだけども、自分でも分かんないのもあります。たぶん、日本でやるのは初めてだと思う。こういう形ではね。

小川 こういう、「アッサンブラージュ」という物の集合体を作品にするものについては、どういうモチーフの選び方があるんですか? どういった時にこういう作品が生まれてくるんですか?

中島 自分に嫌気がさしたりなんかしてると、何か作りたくてしょうがなくなるんだよね。たまたまそこにあった身近なものをくっ付けてみるとそれが面白くて。理由なく好きなのね。でも、日本で何か発表するというのは無かったもので、77歳になって初めて。良い悪いは別としてね。嬉しいものですね。

小川 八月ちゃんは作品を見てどうですか?

八月 私は普段、中島さんの作品が飾ってあるART SPACE BAR BUENAというところで中島さんの作品をよく見ているんです。それも筆がくっ付いていたりとかしてる作品で、今回の作品はもっといっぱいくっ付いていて、力強くて中島さんらしくていいなと思いました。今日展示されている作品は、靴が使われているものが多いですよね。何かそこにはあるんですか?

中島 靴にはね、その人の何かを感じるんだよね。その人の遺したものが。あとは、ロープを使っていますけど、人間も靴も、色んなモノがぶつかっているとなんか安心するんだよね。いまは、前よりもやたらに線を描きたくなってるね。昼間はほとんど色を塗っているだけですけれども、だいたい20点から30点くらい外に並べて色を塗って、夜になったら乾いた作品を家の中でさらに描いている感じだね。

小川 すごく素朴な疑問なんですけど、壁にかけてそこに物を付けていくのか、地面に置いて付けていくのか、どちらなんですか?

中島 絵を描くっていうことより、ボンドとかでくっ付けていくんですね。ちょっと色を塗って。夕方はバケツで水をかけたりしています。そうすると朝に気が付くんですね。自分の力ではなくて、水の力で流れが生まれて。

小川 まず、土台となる板を地面に置いて、くっ付けたいものをくっ付けていくんですね。

中島 そうですね。すべてがバランスなんですよね。あちらに何かをくっ付けたら、今度はこちらに何かをくっ付ける。ただ、あんまりやってると飽きちゃうんだよね。だから、壊すんですよ。自分の作品を。そういうときにパフォーマンスが自分をすごく勇気づけるんですね。

小川 靴はどこで拾ってくるんですか?

中島 うちの奥さんのだったり、誰かが送ってきたり、そういう感じですね。なんか、間違って送ってくる人がいるんです。

八月 えええ!?笑

小川 送ってくるってどういうことですか?笑

中島 いや、なんか知らないけどね(笑) まあ、何でもいいからくっ付けたいんだよね。くっ付けることに意味がある。これはアートとしてということだけども、くっ付けたいのよね。意味が無いんだけど、意味があるような気がするの。

八月 例えば、中島さんの奥様の靴を使うこともあるということですけど、奥様が履きたいと思った時に無くなってるということもあるということですか?笑

中島 うん、よくある。そういうことはあるね(笑) 使っちゃうからね(笑)

八月 そうですよね(笑)

中島 驚くよね(笑) そうそう。

小川 同時に複数の作品を作ったり、作ったものをいったんしばらく時間を置いてから、また作り出したりもするんですか?

中島 2、3年ほっぽりだしたりしとくね。うちの家に来ると入り口に10点くらい変なものがあるんだけどね。そうすると、自然の力で壊れたりして、またそれを作ったり。そういう作品が売れたことはあんまりないけどね。でも、ヨーロッパ人はそういう作品に非常に注意を向けるね。パフォーマンスをなぜやっているかというと、分からないことをするためにやるんです。ヨーロッパではアジア人は馬鹿にされたりするんだけれども、そしたら、分からないことをやればいいんです。彼らは分からないことにすごく興味を持つ。当たり前のことをしゃべっても通じないから。分からないものに彼らは感動するんです。「分からない」ことっていうのは何だろうねえ。目的を持たないということですかね。

小川 色彩とかはどういう感じで……?

中島 色彩は、ペンキとかを上に流して、また水をかけたりすると自然に今日の作品のようになっていくんですね。どこで止めるかが大切で。今回は、安部さんたちが「これがいい」「あれがいい」というのを決めて持ってきたんです。自分が作ったものが良いか悪いかは自分ではなかなかわかんないよね。料理と一緒かもしれないね。

小川 僕も一度横浜のアトリエに遊びに行かせていただいたことがあるんですけど、入り口に並べられているものをひょこっと持ってくるんですか?

中島 そう。本当はもっと大きな作品を持ってきたかったんですけど、ここでは展示ができなくて。

小川 けっこう野ざらしですよね。

中島 そうそう。まだ野ざらしになってます。

小川 作品にくっ付けられた何かが一個くらいなくなっても気づかないですよね(笑)

中島 うん、分かんない(笑) 作品って、人間づきあいと一緒で、その場その場によって変わるんですよ。ここではこういうものを描いていても、スウェーデンに行ったら別な作品を描いていたり。今だから描けるものもあれば、50年くらい前に海外に飛び出したときにしか描けなかったものもあったねえ。僕は画家なんです。パフォーマンスの作家と言われることがよくあるけれどもね。画家として生きたいんですね。画家の道が分からないから、パフォーマンスをやるんですよね。画家であるということを中心に置いて、いつでも絵を描きたいんです。でも、パフォーマンスをやると自分を壊せるんです。

小川 アッサンブラージュって、単純に画面に向かい合って格闘するというよりかは、自分でまず何かを拾ってきてくっ付けるという身体性みたいなことも見えてきたりしますよね。

中島 そう。そういうものがあるから、アジアとかに行くとけっこう変なものがいっぱいあって、それがやたらに嬉しいんですよね。

小川 中島さんは、歩いているときとかは常に何か拾ってやろうみたいな気持ちでいるんですか?

中島 うん、捨てることがあまり好きじゃないんだよね。なんでも集めちゃう。

八月 おお~!

小川 それは、最終的には作品として使っていくんですか?

中島 使えないものは無くて、みんな使えるから、もう嬉しくてしょうがないよね。ゴミはあんまり捨てたことがないね。

小川 八月ちゃんも絵を描いていて、そういう感覚はありますか?

八月 うーん。そうだなあ。私はこういう風にくっ付けたりしたことがなくて。普段の生活の中で、モノに対してあんまり何かを思ってないのかもしれないなと、ふと思いました。

小川 今日展示されている作品を見ていると、中島さんの生活も見えてくる感じがしますよね。やっぱり画材が多かったりとか、手袋だったりとか、雑巾みたいなものとか。絵が中心となってこういう作品ができてきているのかなと。あとは、靴があると、これは誰のものなんだろうとか。

八月 うん。

中島 その時にあったものが全部アッサンブラージュになっているからね。だから、これを続けろと言われても困っちゃうよね(笑) また別のことをやってるかもしれない。画家は、同じことをやっていればいいんですよね。その作家のスタイルというか、「あの作家はこうだ」というようなことが言える。でも、僕にとってはそういうことはあまり面白くはないんですよね。だから、年中壊してるんです。

小川 ではここで、中島さんと八月ちゃんとのコラボレーションの映像があるということで、そちらを上映したいと思います。

(※上映開始。映像を上映しながらトーク続行。)

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八月 これは、2016年の11月26日ですね。中島さんとhachiで新宿歌舞伎町にある新宿ロフトというライブハウスでパフォーマンスをしました。

小川 このとき中島さんは何をしているんですか?

中島 しゃべったりといったコミュニケーションは無いんですよね。その場で何かを始めるから、相手が何を考えているかもわからない。ただ、僕は自分のやりたいことをやって、彼女も一生懸命何かを描いている。お互いどこかで信頼し合っているからね。でも、いつかぶつかるかもしれないね(笑)

小川 音楽の演奏も一緒に行われていたんですか?

中島 うん、音楽もあったよね。何人かの人が協力してくれて、その間は一般的なコミュニケーションはせず、何の会話もなく。

小川 なるほど、事前の打ち合わせは一切なく、即興でやったんですね。

中島 どういうことが起こるか分からないけれど、絵の具はいっぱい買ってきた気がするね。

八月 うん。

小川 床はどうしてるんですか?

八月 床はビニールシートを敷いて保護しています。中島さんとこういう形で、白い布に絵の具を付けていくパフォーマンスはこの時が初めてだったんですけど、その前にアツコバルーというところで中島さんのパフォーマンスに参加させていただきました。今回もそうだし、その時もそうだったんですけど、中島さんのパフォーマンスに加わって一緒にやらせていただく時って、すごく儀式をしているような気持ちになるんです。それに本当に没頭する時間というか、そのことだけを考える時間になれるのが印象的ですね。

中島 こういうことはヨーロッパでもアジアでもやってきたんですけど、言葉は必要ないんですよね。「日本人だから」というようなメッセージも無いし。

小川 これは、お客さんもいるんですよね?

八月 はい。お客さんも観てくれていました。

小川 小麦粉みたいなものも使うんですね。

中島 うん。メリケン粉を一番使ってますね。あれって落ちないんですよね(笑)

小川 このパフォーマンスはどうやって終わるんですか? 完成みたいなものがあったんですか?

中島 もう、とことんまでやったね。彼女も顔じゅう真っ白にしてね。この大きな絵をロフトから持って帰ったのが面白かったね(笑) その時しかできないことができるのが良かったよね。ハチちゃんがいるけれども、人間として見ていなくて、アッサンブラージュとして何かをくっ付けたいというね。

小川 くっ付けるというのは平面に何かをくっ付けるということだけじゃないんですね。モノとモノをくっ付けるということなんですね。

中島 そうだね。音楽の人たちも、どんどん勝手にやってくれてね。ここじゃないと観られなかった。

小川 こういうパフォーマンス自体は60年代くらいからずっとやってらっしゃるんですか?

中島 うーん、50年代もあったかな。その時じゃないとできないことがいっぱいあったね。僕も若かったし。思い出してもしょうがないね、いっぱいあったからね。

小川 自分の中でパフォーマンスの型というようなものはあるんですか?

中島 自分のエネルギーを結び付けたもので、自分の体をくっ付けたいんだよね。この時はたまたまその場にいたハチちゃん。

小川 もう一回こういうのやってくれと言われてもできない?

中島 同じことはできないと思う。似たようなことはできるけれどもね。今日なんかは絵の具を使わないということだったけれど、それでいいの。こういう時の作品は生きているよね。ハプニングという言葉があるけども、それはアートから来てると思ってる。パフォーマンスは誰でもできる。僕のパフォーマンスは、見ている人にお面をかぶせたりするんだけど、みんな面白がってやってくれるんだよね。だからそんな難しいことはない。リビング・オブジェだね。昔はダムアクトと言ったけど。

小川 こうしたことを、50年代や60年代からやってこられて、平面の作品にもリンクしていったりとかしていますか?

中島 僕は、夜なんかには這いつくばって絵を描くんです。キャンバスにはあまり描いたことはなくて。その時に描けるものをそこで描くんですね。だから、昼間に描く絵と夜に描く絵は違う。どこかに行って他の国で描く絵も、また違うものになる。自分のスタイルを作りたくないし、自分を壊したいという気持ちもあるし。

小川 朝起きてから夜眠るまでずっと作ってるんですか?

中島 鳥が鳴くころに何となく起きちゃうんだよね。特別な意味は無いですね。散歩するのと同じです。評価とかそういうことはどうでもよくて。自分の中に芽生えたアートだから。弟子もいるわけではないし。

小川 ライブ感みたいなものがすごくあるんですね。音楽のライブともまたちょっと違うとは思うんですけど、一回きりでその場の人しか体験できないことですよね。中島さんがやっているのは。

中島 気持ちが騒ぐんだよね。それを中途半端にしたくないの。

小川 絵を描く時のライブ感と、パフォーマンスの時のライブ感というのは違うんですか?

中島 この時は人間を使ったアッサンブラージュで、今日のこういう場ではそこまで大きなことはできないよね。外になるとまた、その環境にある木や車にまで何か描きたくなるし。環境っていうのはすごいと思う。

(※続いて別の映像へ)

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小川 次にお見せするのは、僕が中島さんを三鷹の駅前にお招きしてライブペインティングをしていただいた時のものですね。これは2014年ですね。この時はどのようなイメージだったんですか?

中島 2日間か3日間で何か描いてくれと言われて。はじめは1点かなと思ったら、2点大きなものをということで。寒い季節で、雪があったよね。

小川 こうやって画家が絵を描いているところって、普通は見られないですから、面白いですよね。絵を描いているんだけども、それがパフォーマンスにも見えてくる。

中島 もう、描いているうちに崩したくなるんだよね。

小川 壊すということと、創造っていうことは中島さんにとってはどのようなものなんですか?

中島 年中作っては壊して、勝手に色を塗ったり勝手に水をかけたりすると、すごく良いものに見えたりする時があるんですよね。

小川 その破壊して作ってというサイクルの中で、どの瞬間に「これでもう完成だ」という局面が訪れるんですか?

中島 完成っていうのはなくて、最後にはダメになっちゃうときもあるよね。完成は分かんないんですよね。誰かに止めろと言われない限りは、ギリギリまで描きたい。ギリギリまで壊したいし。

小川 では、完成されている作品でも、見ているといじりたくなるんですね。

中島 そうですね。

小川 この時は、ボランティアの人たちにTシャツを着せて、それに何か絵を描いたんですよね。

中島 うん。街を歩いてもらったりしたね。68年頃の話になるけど、その頃ウッドストックで音楽のムーブメントがあって、その時に海外へ飛び出すタイミングだと思ってあちこちに行きましたね。

小川 ウッドストックに行ったんですか?

中島 いや、そのニュースを見て飛び出したという。

小川 きっかけになったんですね。ところで八月ちゃんは、一緒にパフォーマンスをしているときに何かを描いてもらったりイジられたりしている時というのは嬉しいものですか?

八月 そうですね。嬉しい(笑) 嬉しいですね(笑) 中島さんの絵に対する向き合い方とかを見ていると、構えていないというか、朝起きてからすぐに絵のことを考えている。絵と自分の生活との間に段差がなくて、うらやましく思います。

小川 (描くということが)特別なことではないということですよね。

八月 そうですね。やっぱり、どうしてもキャンバスって特別なものに思えちゃったりとかして、それに向かう時に私は「よし!」っていう構えを作ってしまうので。中島さんはそれが無いということなんですか?

中島 日本を出てヨーロッパに行ったとき、道路絵描きをしていたんです。そこで少し小銭をもらったりして。絵で小銭をもらえない時は歌を歌ったんです。変なことをやってるとみんなが集まるの。でもやっぱり絵を描きたいんだよね。だけど絵を描けない時もあるよね。何も考えない方がいいんですよね、絵を描いているときはね。ただ手を動かす。それが絵になる。

小川 中島さんは、ご自身で自分を「パフォーマー」とは言わないですけど、キャラ立ちしているから何をやっても絵になるというか、面白いですよね。映像を見ていても、そこで描かれてる作品を絵として見られるけど、中島さんの動きもすごい面白い。

八月 うんうん。

中島 あんまり、こういう公的な場所でやったことはないんだよね。

小川 隣がすぐ警察ですもんね。交番の横でやってるんですよね。

中島 駅前のね(笑) あんまり決められちゃうとダメだよね、人間って。絵を描けなくなっちゃう。急いで描いて逃げるんならいいよね(笑) 僕は、人が白い服を着ていると絵を描きたくなっちゃってね。いつもマジックを持ってる(笑)

小川 そうなんですか、描きたくなっちゃう!? それは怒られますね(笑)

中島 子どもみたいに見ていると、「いいよ」って言ってくれる人がたまにいるけどね(笑) まあ、外ではあんまりいないね。

小川 中島さんはおいくつになられたんですか?

中島 77歳。

小川 77歳でその湧き上がるパワーみたいなのはどこから来てるんですか?

中島 なんか嬉しいんだよね。何かをやったぞっていう気持ちが。僕は農家の出身だから、何か手を動かしたりしないとね。

小川 今は基本的には日本で制作されているんですか?

中島 日本にいるときは日本で。

小川 スウェーデンにもたまに行くんですか?

中島 ほとんどスウェーデン。8か月くらいは。

小川 そうなんですね。いま同時開催でほかのところでもやっているんですよね? そちらはどういうことをしているんですか?

中島 そっちは、また向こうのギャラリーの人が来て勝手に持って行ったやつをやってるね(笑)

小川 勝手に持っていくって(笑) 今後何かやってみたいことはありますか? いまのように、朝起きてから寝るまで描くみたいなことが一番幸せですか?

中島 やっぱりアートを中心に生きていたいね。アジアのベトナムとかいろんな国に行ってみたいよね。

小川 今後の野望としてはアジア進出というのがあるんですね。僕、アジアには相当知り合いがいますよ。

中島 何も計画なく行きたいね。決められたところで何かをやるのは面倒くさいから(笑)

小川 なるほど。でも、アジアだとすぐ捕まったりしますよね。

中島 ヨーロッパは決められたところで、「ここで描いていいよ」というのがあるからね。許可が与えられたところでは好きなことをやってよくて、周りも喜んで応援してくれる。

八月 中島さんの本を読ませていただいたんですけど、昔どこかの国で国外退去になったことがあるんですよね?笑

中島 フランスにいた時は良かったんだけどね。同じ時期にイギリスに行って、道路で絵を描いたりしていたらすぐに警察が来てね。危険人物と思われることがあって。でも僕は政治とは全く関係なくやってて、自分で描きたいことを描いていただけなんだけどね。ただ、外でやっている時にたまたまそれが人のお家だったり。

八月 ええええ!? それは怒られますよ(笑)

中島 そういうことはあるよ、たまにはね(笑) だから、急いで描いて終わらせちゃうのね。

小川 いま、行けない国とかはあるんですか?

中島 そういうのはないね。最近は、海外のキュレーターからお前の昔の写真を見つけたと言われることがあるね。ネットの社会だから、簡単に自分の人生が見つかっちゃうね。映像も出てきたからね。

小川 昔の映像が出てきたんですか?

中島 ヨーロッパに行った時のものとか全部出てくるんだよね。

小川 そういう映像も今制作されているドキュメンタリーに入ってくるんですか?

中島 そうね。たぶんね。

小川 中島さんの世代で今でも現役バリバリでやられている人ってあんまりいないですよね。

中島 ヨーロッパ人は、画家は夏休みを取るからね。朝晩描く人もあんまりいない。やっぱり日本人臭いよね。日本人って働くからね。ただ僕はアートのことだけに力を入れて、他のことは何もしていないからね。

(※ここで、かなり昔にヨーロッパでパフォーマンスをした時の映像が上映される。)

小川 お、これは昔のですね。

中島 これはコペンハーゲンのど真ん中にある駅の中でやったパフォーマンスだね。ちゃんと許可をもらってやったものだね。いまから50年くらい前のものだけど。

小川 やってること、何にも変わってないじゃないですか(笑) これはびっくりされますよね。ヨーロッパの人には。

中島 別にアジア的なことをやっているわけではないんだけどね。そこにあるものを使っているだけで。ただ、「ハラキリ」と題したパフォーマンスはずいぶんやったね。そういうテーマにするとみんなが寄ってくるよって人に教えてもらって、人集めには都合がいいなと(笑) ヨーロッパの人にとっては怖いもので、意味を知りたいと思うものなんです。

小川 この時は単身乗り込んでいるんですよね?

中島 大概そうだね。誰かが呼んでくれると行ってやってたね。

小川 言葉はもちろん通じないんですよね?

中島 通じないね。この時は世界のニュースになったんですけど、僕はこのあと電車で置いてかれちゃった(笑) デンマーク国鉄を使って、駅を回って降りてやってたんだよね。

小川 なんで置いてかれちゃったんですか(笑)

中島 けっこういろんな道具を持ってたからね。残されちゃった(笑) 当時は数えきれないほどパフォーマンスをやって、個展も500回くらいやったような気がする。この映像はコブラという運動の人とやった時のだね。若い時は3時間とか5時間とか平気でやっていて、疲れたら眠ればよかった。それもパフォーマンスになるから(笑)

小川 何かが降ってくるんですか?

中島 うん、何かが勢いづいてくる。みんながやらないことをやると、嬉しいのね。誰が映したか知らないけど、これはけっこう長い映像だね。パフォーマンス中にコミュニケーションを取ろうとしてくる人もいるけど、嫌だったら眠ってしまえばいいしね(笑) ヨーロッパ人というのはけっこう真面目に見てくれるよね。

小川 八月ちゃんにとっても、見習いたくなるスピリットがありますよね。

八月 ありますね~。

中島 僕は別に変わった人だとは思っていないんですけどね。

小川 変わってますよ(笑)

中島 自分の体が作品になってるから、ご飯を食べに平気で街まで行っちゃうときもあるね。

小川 八月ちゃんもとりあえず、白い粉を用意しないと。

八月 白い粉を(笑) やっぱり、こういうパフォーマンスをしていると気になっちゃいますよね。

小川 なかなかいないですよね。こういう人。

中島 運動でもないし、組織的な何かでもないんだけどね。

小川 この映像の時は何歳くらいでしたか? 20代ですか?

中島 30歳くらいになった時かな。いま、刀を手に取ったと思うけど、これは本物ではないのよ。「ハラキリ」っていうことで始めたから刀を持っていないとおかしいから(笑) 見ている人たちは、いつか腹を切るのかなと思ってるんだけど、このあとどうしよう、どうやって逃げようかって考えながらやってたね(笑)

小川 ではここで、せっかくの機会なので何か質問のある方がいればどうぞ。

八月 あ、私からちょっといいですか。中島さんは外国に行ってアートをやられたわけですけど、どのような動機があったんですか?

中島 その頃は東京オリンピックよりも前の時代で、日本はとっても不安でしょうがなかったのね。何やってもダメだし、落ちこぼれてるし。公募展に出しても全部落ちてしまったし。だから、変なことやってたのね。でも、外国に行けば自分のことは誰も分からない。未知の世界だから何をやってもおかしくならないなと思って。だけど、説明はできないからね。みんなが黙って、そこに長く居てくれたら、「俺のことを理解してくれたのかな」って思ってた。最後は逃げる(笑)

小川 でも、中島さんは人から愛されますよね。このキャラクターで。

中島 僕は人間が好きで、僕もみんなを愛しちゃうのかもしれないね。別に難しいことをやっているわけでもないし。

小川 ほんと、どうやって生きてきたんですか?笑

八月 気になりますよね(笑)

小川 このパフォーマンスも、投げ銭とかでもないですよね?

中島 変な話、このパフォーマンスは遊びなんですよ。僕は画家なので。画家は絵を描けば絵が売れるんです。こういうの(パフォーマンス)はお金にならない。ただ、僕はこれをやっていないと生きていけないんです。

小川 両方必要なんですね。

中島 僕はこれをやっていないと、ヨーロッパでバランスが取れなかった。だって、一人だから。これだけの人はいつでもどこに行ってもいるし。その中に自分が特別な感情でぶつかっていかないと、ヨーロッパでは生きていけない。

小川 パフォーマンスもしつつ、一方で絵も描いて売っていたんですね。

中島 そうそう。そして、パフォーマンスが終わったときは早く逃げること(笑) 説明ができないからね(笑) よくやったね。若すぎたのかもしれないね。説明ができないことをこうやってね。

小川 どうですか、みなさん。何か質問があれば。

(はい。見ている人から「笑われる」ということがあったとして、その点に関してはどういう風にお考えですか?)

中島 面白ければ笑うんだろうけれど、このパフォーマンスは面白くもなんともないんだよね。今日のパフォーマンスでも声を出していたけれど、ヨイクというのをやるんです。ヨイクというのはラップランドという北の一番寒い地域にある歌唱ですね。ヨイクというのは言葉を腹から出すもので、具体的な言葉のメッセージではないんですね。そこには絶対に何かがあって、そういうことをしている時には笑われたりはしないんです。僕は英語もできないし日本語も上手じゃない。でも外国でも生きていられたというのは、何かがあったんだろうね。

小川 すごいですね。目が離せませんもんね。

中島 この時はもう3時間か4時間やってるときですね。まあ、自分で自分を可笑しく思う時もあるね(笑) お面をかぶるとやっぱりみんな面白がるよね。最近は旗を振ったりもしてる。

八月 パフォーマンスと言うよりも、コミュニケーションと言った方がいいものなんですかね。

中島 たしかに、後ろで見ている人なんかは応援してくれているような感じがするよね。みんな動かないんですよね。駅でやっても道路でやっても。そうかと思えば質問をしてくる人もいるし。変なものを見たという気持ちなのか、今まで見たことがないものだから特別な気持ちで見てくれたのか、それはどうでもいいんですけどね。僕は自分をぶつけているだけだから。だから、日本に帰ってきたときはあまりこういうことはしないね。したって分からないし、落ち込んじゃうこともあるからね(笑) 隠れてやるのはいいね。たまにね。

小川 ではそろそろお時間になりました。今日はこの後も逃げずにいらっしゃいますよね(笑) 是非皆さん、またゆっくり見てくださればと思います。

中島 中目黒でもやっていますので。お願いします。 

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 以上、トークの記録でした。

 「中島由夫のアッサンブラージュ展」は1月28日(日)まで開催されるということですので、興味のある方はぜひ足をお運びください!!! 

 生き生きとトークに参加している八月ちゃんの表情が印象的な一日となりました。これからもhachiとして、そしておやすみホログラムの八月ちゃんとして頑張る彼女の姿を追いかけ続けたいと思いました。

sagaさんがめちゃくちゃ素敵な表情の八月ちゃんを切り取られておりました!