八月ちゃんの進む道
八月ちゃんがおやすみホログラムを卒業した。10月30日に「お知らせ」が出され、翌日に卒業。あっという間の出来事で理解が追い付かなかった。感傷に浸りたかったのだが、仕事の出張などに追われてしまい、そうした時間を味わう贅沢には恵まれなかった。今ようやくじんわりと寂しさが込み上げてきている。
おやすみホログラムより大切なお知らせです。https://t.co/4taFKB04TO pic.twitter.com/ZSMC8R5boG
— おやすみホログラム (@oysm_hologram) 2020年10月30日
今回の卒業はある程度円満なものなのだと思う。メンバー3人がそれぞれコメントを出していることからもそれはうかがえる(喧嘩別れに見えないように精一杯努力をした結果に過ぎないのかもしれないけど。。。)。しかし、公式による通販の商品の引き上げの早さや、卒業翌日の11月1日にケロッと動き出した八月ちゃんのスピード感には、寂しさや驚きや安堵などがない交ぜになった複雑な感情を抱かずにはいられなかった。YouTubeで自己紹介をする八月ちゃんの言葉の中にはもう「おやすみホログラム」という単語は登場しなくて 、「ああ本当に卒業したんだな」という微かな実感を出張先のホテルで缶ビールと共に味わった。
11月1日だけど八月ちゃん!🐢🌻
— 🐢八月ちゃん🐢 (@8gatsu_chan) 2020年10月31日
【初めまして】八月ちゃんの八月宣言!!八月ちゃんネル【11月だけど】
そんなスピード感も、八月ちゃんなりのサービス精神の表れなのだろうと思う。最速で姿を見せてくれたのだ。八月ちゃんは仕事をしていないと不安になるタイプだと思われるし、言い方を変えればせっかちさんなところがある。おやすみホログラムはある意味でとてもマイペースなユニットなので、サービス精神の発露の仕方が他の二人とは異なるタイプである八月ちゃんが違和感を感じてしまったのも仕方のないことだったのかもしれない。旺盛に活動している姿をこれからも見守っていきたい。
おやホロの2人のことも、もちろん応援を続けていく。八月ちゃんの卒業によって、むしろ、オガワさんがこれまで書いてきた曲の説得力は増していくと思う。喪失によって完成するものもある。次なるステージで、もうここにはいない「君」の影と一緒に、また踊らせてほしい。
おやすみホログラムと、八月ちゃんの進む道に幸多からんことを。
お気に入りの一枚
ゴトウユキコ「天国までひとっとび」(webアクション、双葉社)感想
ゴトウユキコの新たな代表作が誕生した。そう言って差し支えないくらいにこの作品は世間に広く受け入れられたと思う。素晴らしい短編だった。作者の読み切りを描く巧さは短編集『36度』ですでに証明済みだったが、ますます研ぎ澄まされた筆力に舌を巻いた。今年(2020年)最終回を迎えた『夫のちんぽが入らない』の連載を経て、もはやどんなものでも描けてしまう境地に達しているように思う。人物の表情だけでなく、背中や指先なども使って感情を表現する描写力が遺憾なく発揮されていた。
今回発表された「天国までひとっとび」は、死んでしまったヒロインが幽霊になって主人公のもとに現れるというお話であった。飛行するヒロインがいて、先生への恋があり、主人公は成績がイマイチで、スマホはまだ登場していなくて、スーファミかプレステと思しきゲーム機が部屋に転がっている。ベタなモチーフや懐かしいモチーフが散りばめられていて、敵らしい敵は出てこない。『36度』所収の「すてきな休日」のような、ファンタジー混じりの心温まるお話だった。ひょっとすると、ゴトウユキコ氏はこの路線の方が上手なんじゃないかと思わされた。性を真正面から描く作風でも評価を得ているが、全年齢対象の作品で、より多くの読者を相手に戦えるだけの力を持った作家なのだということがよく分かった。
ゴトウユキコ最新新作読み切り「天国までひとっとび」、webアクションにて公開されました。
— webアクション (@webcomicaction) 2020年9月25日
太朗と晶、ひと夏の物語――https://t.co/6tXH5nh9eT pic.twitter.com/nQkY8AyClq
Webアクションに読切「天国までひとっとび」が公開されました。さわやかなかんじの話です。好きな人には沢山好きを伝えたいです。読んでもらえたらめちゃめちゃうれしいです。 https://t.co/6YfjYkDa0Q pic.twitter.com/7HkjuqZesf
— ゴトウユキコ (@gotouyukiko) 2020年9月25日
今回の作品では、ベタなことをあえてじっくり丁寧に描いているような印象を受けた。漫画の教科書みたいな感じ。それでいて、誰もが当たり前にできることではない芸当も各所に見つけることができる。夕日に溶ける晶の姿や、角田に声をかけられ姿が薄れていく晶の様子を描いた3コマは特に美しい。棺の中にいる晶の口にさされた紅もよかった。他方で、どたどたと走る太朗たちのうしろにホコリがもくもくする描写や、角田にファイルで頭を叩かれたときの太朗の顔の潰れ具合などはとても漫画的な記号で表現されている。そのバランス感覚が実に巧みだと思う。
ネット上での評判を探ってみると、同業者にも非常によく読まれているようだった。感服するか、巧さに打ちのめされて落ち込むか、嫉妬するかの3種類に大別できる反応が見られて面白かった。
作中には音楽の引用も発見することができた。学校の廊下の壁に書かれている文字を調べてみると、以下のバンドの曲がヒットした。やはりちょっと懐かしい時代に影響を受けている。また、太朗が遊んでいるゲームのキャラクターは、すあだ氏が作成したアニメ「ジャスティスボーイ」がモデルなのではないかと思われる。こういった細かい遊び心もとても面白かった。
ところで、来年は丑年なわけだけれども、『ウシハル』の映像化とかしないもんですかね。絶対良いと思うんだよなあ。
PINK「DON'T STOP PASSENGERS」(14ページ、廊下の壁)
PINK - DON'T STOP PASSENGERS (1986)
ジャスティスボーイ真2 第8話「ジャスティスボーイとこどもたち」