もしもし、そこの読者さま

ライブアイドルのライブレポ、Sexyzoneのライブレポ、映画・舞台・本などの感想などなど

ゴトウユキコ「天国までひとっとび」(webアクション、双葉社)感想

 ゴトウユキコの新たな代表作が誕生した。そう言って差し支えないくらいにこの作品は世間に広く受け入れられたと思う。素晴らしい短編だった。作者の読み切りを描く巧さは短編集『36度』ですでに証明済みだったが、ますます研ぎ澄まされた筆力に舌を巻いた。今年(2020年)最終回を迎えた『夫のちんぽが入らない』の連載を経て、もはやどんなものでも描けてしまう境地に達しているように思う。人物の表情だけでなく、背中や指先なども使って感情を表現する描写力が遺憾なく発揮されていた。

 今回発表された「天国までひとっとび」は、死んでしまったヒロインが幽霊になって主人公のもとに現れるというお話であった。飛行するヒロインがいて、先生への恋があり、主人公は成績がイマイチで、スマホはまだ登場していなくて、スーファミかプレステと思しきゲーム機が部屋に転がっている。ベタなモチーフや懐かしいモチーフが散りばめられていて、敵らしい敵は出てこない。『36度』所収の「すてきな休日」のような、ファンタジー混じりの心温まるお話だった。ひょっとすると、ゴトウユキコ氏はこの路線の方が上手なんじゃないかと思わされた。性を真正面から描く作風でも評価を得ているが、全年齢対象の作品で、より多くの読者を相手に戦えるだけの力を持った作家なのだということがよく分かった。

36度 (モーニングコミックス)

36度 (モーニングコミックス)

36度 (モーニングコミックス)

 

  

 

 今回の作品では、ベタなことをあえてじっくり丁寧に描いているような印象を受けた。漫画の教科書みたいな感じ。それでいて、誰もが当たり前にできることではない芸当も各所に見つけることができる。夕日に溶ける晶の姿や、角田に声をかけられ姿が薄れていく晶の様子を描いた3コマは特に美しい。棺の中にいる晶の口にさされた紅もよかった。他方で、どたどたと走る太朗たちのうしろにホコリがもくもくする描写や、角田にファイルで頭を叩かれたときの太朗の顔の潰れ具合などはとても漫画的な記号で表現されている。そのバランス感覚が実に巧みだと思う。

 ネット上での評判を探ってみると、同業者にも非常によく読まれているようだった。感服するか、巧さに打ちのめされて落ち込むか、嫉妬するかの3種類に大別できる反応が見られて面白かった。

 作中には音楽の引用も発見することができた。学校の廊下の壁に書かれている文字を調べてみると、以下のバンドの曲がヒットした。やはりちょっと懐かしい時代に影響を受けている。また、太朗が遊んでいるゲームのキャラクターは、すあだ氏が作成したアニメ「ジャスティスボーイ」がモデルなのではないかと思われる。こういった細かい遊び心もとても面白かった。

 ところで、来年は丑年なわけだけれども、『ウシハル』の映像化とかしないもんですかね。絶対良いと思うんだよなあ。 

  

PINK「DON'T STOP PASSENGERS」(14ページ、廊下の壁)


PINK - DON'T STOP PASSENGERS (1986)

 

 


残像スティグマータ-衝動的の人-


ジャスティスボーイ真2 第8話「ジャスティスボーイとこどもたち」