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『夫のちんぽが入らない』(原作こだま/画ゴトウユキコ)⑤(完)と引用

 『夫のちんぽが入らない』の最終5巻が発売されました。連載の始まりから追いかけてきた作品なので、なんだかこちらまで感慨深い。原作の内容を追い越して、『夫のちんぽが入らない』の出版前夜のことや、漫画版オリジナルの展開などが繰り広げられることになる最終巻であり、読者をアッと驚かせる工夫が随所に仕込まれています。この夫婦の「これまで」を中心に描いたのが原作でしたが、「いま」と「これから」を、表紙カバーをめくった紙面までをも使って、漫画にしかできない表現で描き切っています。ゴトウさんの画力は、天井知らずでグングンと冴え渡っていて、これに嫉妬しない同業者はいないだろうという境地に達しています。

 この作品は、最初の何話かを週刊で連載したのちに月一連載へと変わったため、ヤンマガを毎週購読している人にとっては時々載ってる作品という認識であったかもしれません。しかし、回を追うごとに着実に読者を惹き付け、その存在感は大きなものになり続けていたように思います。完結時と、今回の最終巻刊行時の反響のうねりを見ていると鳥肌さえ覚えます。 アイナ・ジ・エンドさんまでもが「いいね」をしていたのにはびっくりしました。すごい。各所に届いている! 

 

 

 

さて、これまで単行本が発売される度に、ゴトウユキコさんがコマの隅っこに書き込んでいる言葉を読み解いて、そこに隠された音楽や映画を説き明かすというブログを私は書いてきました。これで最後だと思うととても寂しいですが、例によって今回も隅々までじっくり読んで、いくつかの音楽を見つけることができました。絶妙にストーリーとシンクロした音楽が、やはり今回も散りばめられています。これらの音楽を聴きながら、作品を二度三度おいしく楽しんでくださる方がおられましたら幸いです。 

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毛玉(95ページ)

 さち子が慎さんの髪を刈ってあげる場面にて。さち子が着ているスウェットが毛玉というユニットのグッズになっていたものと同じです。ゴトウさん自身がツイッターで呟いていました。また、ゴトウさんは毛玉のアルバムにコメントを寄せてもいたようです。毛玉の曲を何曲か聴いてみましたが、「まちのあかり」という曲の歌詞がとても胸を打ちます。「夕方」の寂しさの歌い上げ方が、完結に向かう作品そのものを寂しがる心境とマッチします。往復書簡に寄せていたゴトウさんのコメントとも同期する不思議。ぜひ読み比べてもらいたいと思いました。

帰りたくないけど夜が来てしまう

 

 https://kurokedama.thebase.in/items/25979505

 


毛玉 - まちのあかり feat. その他の短編ズ / Kedama - City Lights feat. Sonotanotanpenz

 

平沢進「白虎野の娘」(127ページ)

 文学フリマの場面にて、様々なブースの掲げているポスターや看板が書き込まれているコマがあります。その中に、「白虎野の娘」の文字が。これは平沢進氏の同名曲のことで間違いないでしょう。『夫のちんぽが入らない』とどれくらいシンクロしているだろうかとわくわくしながら聴いてみましたが、平沢進氏の書く詞はとても素敵で感動しました。この曲は数々の苦難を乗り越えてきたさち子を祝福するかのようで、テンポのある曲調も、歌詞の内容もとても心に沁みました。「幾千の分岐を超えた」というのは、主人公「さち子」が1巻から4巻までの物語で歩んできた長い道のりのことのように思われるし、「捨てられた野」ってまるで「おしまいの地」のことみたいだし、感動しかありません。意図的にこの曲をチョイスしたのではないかと思われるような、絶妙な忍ばせ! 他にも「夢の島思念公園」などの曲名も見られます。こちらの曲には「万事に休すの声も 風がかき消す」という歌詞があって、ピンチを乗り切りながら生きる私たちの背中を押してくれます。 

 

あれが夢で見せた街と 影の声がささやいた
来る日も 来る日も 幾千の分岐を超えた時

 

マントルが 饒舌に 火を吹き上げて
捨てられた野に立つ 人を祝うよ
静かな 静かな 娘の視野で
見知らぬ都に 灯が灯りだす

 


Susumu Hirasawa - Byakkoya - White Tiger Field - Live Hybrid Phonon

 

郷ひろみ「林檎殺人事件」(127ページ)

 同じ文学フリマの場面には「林檎殺人事件」の文字もありました。なんとなく文学フリマで見かけそうなタイトルでもあります。男性と女性のすったもんだの歌だから選ばれたのでしょうか。どんなことでも明るく笑い話にしてくれるこだまさんの作風に通じるものがあるかも。


林檎殺人事件(郷ひろみ、樹木希林)

 

100s「Honeycom.ware」(129ページ)

 文学フリマの場面にて、「なし水」を買いに来た男性の近くにいる女性が持っているトートバッグにバンド名と曲名が記されています。調べてみるとこの曲しかヒットしなかったので、これのことだと思います。 この曲も歌詞が素晴らしいです。中村一義さんの良い仕事。次に引用する箇所は、漫画オリジナルの終盤の展開と重なります。さち子がこれからも書き続けていくことを応援する慎さんの気持ちのよう。「君が望むのならしな」「心生きるのなら」。聴きながら漫画を読み返したら少し泣いてしまいました。

 

君が望むのならしな、しな。

君が望むのなら。

君が望むのならしな、しな。

心、生きるのなら。

 


100s - 「Honeycom. ware」

 

 以上、『夫のちんぽが入らない』に引用されている音楽を読み込むシリーズの最終回でした。音楽と共に末永く読み返し、聴き返し、記憶に残る作品になりそうです。

 

夫のちんぽが入らない(5) (ヤングマガジンコミックス)