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この「語り手」についていきたい 姫乃たま『周縁漫画界』(KADOKAWA)

 姫乃たまさんの『周縁漫画界』を読みました。この本はコミックビームに関わる人々へのインタビュー集です。漫画家さんだけでなく、編集長、デザイナーさんへのインタビューも収められています。

 「インタビュー集」と銘打たれていますが、普通のインタビュー集とは少し違うところがあります。それは、話した内容の書き起こしで構成されているわけではないという点です。巻末の夏目房之介氏との対談以外はすべて、姫乃たまさんを「語り手」とする叙述で構成されていて、作家さんたちの発言の多くが間接話法の形で語られます。どちらかというと、インタビュー集というよりも、ビーム作家さんたちの「訪問レポート集」とでも呼ぶべき趣の内容となっています。

 各作家の熱心なファンの中には、作家さんたちの言葉をそのまま書き起こしたものが読みたいという人もいるかもしれません。ひょっとすると、「作家さんの発言が少なめなのであれば、読まなくてもいいかな・・・」と思ってしまった人もいるかもしれません。しかし、それはいささか早計な判断です。というのも、この形式だからこそ収めることができた内容が本書にはたくさん含まれているからです。そして、それらが作家さんたちをより一層魅力的に見せるための絶妙なスパイスになっています。

 仕事場の風景や、その日の気候や、インタビュー中の作家さんたちの姿や立ち居振る舞い。発言の書き起こしをするだけではこぼれ落ちてしまう、インタビュアーの見た風景や当日のムードがしっかりと記録されているところがこの本の魅力です。それらは、姫乃たまさんを語り手とする形式をとったからこそ、この本に収めることができたのだと思います。ひとつひとつの章が、インタビューをしたお相手への心のこもったラブレターのようで、胸が熱くなりました。

  また、こうして複数の作家さんたちのインタビューがまとめて収録されていなかったら、一生人となりを知ることがなかったであろう作家さんとの「出会い」をもたらしてくれたのも貴重でした。今まであまり関心を持ってこなかった作家さんのインタビューもついつい読みたくなってしまうという意味では、非常に雑誌的なインタビュー集だと思います。作家さんや編集者さんたちの表情や仕草までが生き生きと見えてくる、もう一つの『コミックビーム』を読んでいるかのようでした。これからも語り手として、いろんな方の「顔」を私たちに伝えていただきたいと思いました。

 「漫画業界の片隅に咲く、一輪のタンポポ」という『コミックビーム』のキャッチフレーズは、この本の中でも引用されるのですが、素敵な言葉だと思います。その種子はあちこちに飛散して、これからも『コミックビーム』のイズムが芽吹いて継承されていくに違いないという、明るい希望を持たせてくれる一冊でした。

 

 

周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集

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