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もしもし、そこの読者さま

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宗像明将『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を読みました

アイドル論 考察 宗像明将 ブックレビュー

 

 

渡辺淳之介:アイドルをクリエイトする (MOBSPROOF EX)

渡辺淳之介:アイドルをクリエイトする (MOBSPROOF EX)

 

 

 標題の通り、宗像明将氏の『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を読みました。BiSの生みの親にして、現在は独立してPOP、BiSH、BILIE IDLEなどを手がけている渡辺淳之介氏に、音楽評論の仕事を中心に活躍している宗像明将氏が長大なインタビューを行ない、その内容を起こしたものです。インタビューは全5章で構成されており、渡辺氏の誕生から現在までを詳細に聞き込んでいます。各章の扉には宗像氏によるキャプションがあり、「若き実業家の成功体験記」的なノリで本書の読み方を導くようなパラテクストの役割を果たしています。

 

 一度通読し、それから、印象的だった箇所などを何度か読み返しました。非常に表情の豊かな本であると思いました。そして、とにかくものすごい力作です。約15時間に及ぶインタビューを行なったということで、渡辺氏を丸裸にした宗像氏も、それに応じた渡辺氏も、あっぱれとしか言いようがない大作だと思います。

 さて、帯には「人生に悩む若い世代に向けた人生の指南書である」「エモーショナルな自伝」「いつでもシュートを打てる体勢をとっているか?」などの文句が記されており、社会人向けハウツー・自己啓発的なパッケージングを企図しているように見えます。「元研究員」や「清掃員」も含めたアイドルに少なからず関心を抱いている人種だけでなく、いろいろな人に手に取ってもらうための工夫なのでしょうか。実際に中身を読んでみても、渡辺氏がつばさレコーズで働き始める前の下積み時代の話や、BiSが始動してからの綱渡りの連続のエピソードなど、職業人としての「構え」について非常に示唆に富んだ内容に溢れています。

 しかしそれだけでなく、この本の前半は渡辺淳之介氏の生い立ち・生育の過程について相当突っ込んだインタビューをしており、これもかなり読みごたえがあります。渡辺淳之介といえば、アイドルに常識はずれの過酷な試練を次々と課しながら世間の話題を集め、彼女たちを売り切った男です。人情の欠片もない仕掛けを平然とやってのけた渡辺氏の人格形成がかなり探られています。「情緒が読めない」「人になんで怒られているのかはよくわからない」子供だったという渡辺氏は、自分にある種の発達障害的な傾向があったのではないかと振り返っています。また、母に叱られてばかりいたことで自己肯定感も低く、劣等感に苛まれることもあったというエピソードは非常に興味深かったです。

 途中まで読んだ時に私は、このような感じで渡辺淳之介という人間の精神分析をしながら、彼の手がけた仕事を作家論的に分析していくような方向で本書は進んでいくのかと思っていました。しかし、青年期に差し掛かって以降は、帯にも書かれているような雰囲気、すなわち成功を収めた実業家の伝記的な性格が表向きは強くなっていきます。そして本書をそのように読むことは間違っていないと思います。

 ただ、私が心打たれたのはもっと別の部分でした。この本は、「人生の指南書」として人々を励ます本として読まれてもよいのかもしれません。しかし私は、もっともっと個人的な、渡辺氏を祝福する本としてこの本を読みました。渡辺氏の祝福の書としてこの世に生み出されただけで、十分価値があると感じたのです。では、渡辺氏の何を祝福するのか。彼の収めた成功か。いや、そうではありません。私は、渡辺淳之介が社会性を獲得していくまでの物語を祝福したいと思います

 第1章は、章題にもある通り、渡辺氏の「残念な幼少期」について語られています。先程も引用したように、彼は「情緒が読めない」「人になんで怒られているのかはよくわからない」。「コミュニケーションが苦手だった」「平気で嘘をついていた」「めっちゃ孤立していたんですけど、それに何も感じていなかったような気もする」「深い関係の友達は全然いなかった」。以上は全て1章で語られていることですが、このように並べてみると、相当な「大物」であったことが分かります(笑)

 仕事で帰りが遅かった父親とほとんど会話がなかったことと、母親からは叱られてばかりいたということが重なり、認められたいという思いを強く持つようになったということも語られていました。

 この伏線(?)が後半になって非常に効いていて、彼が就職活動以降に遂げる変化に私は感動しました。就職活動で味わう挫折については第3章で語られています。渡辺氏は就職活動がうまくいかいことで、「誰かがわかってくれるんじゃないか」という淡い期待を裏切られ、「悔しい、何でわかってもらえないんだろうな?」とむせび泣く夜を経験したといいます。人の気持ちのわからない男が、分かってもらえない辛さを経験するという、(こう言ってよければ)熱い展開です。

 デートピアへの就職・修行を経てつばさレコーズで仕事を重ねていく日々について語られていく中で興味深いのは、渡辺氏が涙を流したり怒りを感じたり苦しんだりした経験が語られる頻度が格段に増えていくということです。2章にもその兆候は少しあって、「りながBiSを脱退するときにちょっと泣いたのは自分でもびっくりしました。やっと人間になってきたのかもしれないです。」というくだりがありました。この時点で、もしかしてこの本は彼が社会性を獲得するまでの物語を描いていくのでは!? と思わされたのでした。4章では、国技館のアンコールで涙が止まらなかったという話のほか、松隈ケンタさんとの友情も語られます。「深い関係の友達は全然いなかった」頃の面影はもうありません。

 私は、渡辺淳之介に「社会性」と「感情」がインストールされていく過程に感動を覚えたものですから、BiSを売り切るまでのストーリーはさらりと読み流してしまいました。もちろんそこには、職業人としてとてもためになるエピソードが満載でしたし、非常に勉強になりました。でもやっぱり渡辺淳之介というパーソナリティそのものの、小さな成熟の物語が、圧倒的に魅力的に映ったのでした。まるで、アイドルの成熟の物語のように

この本のタイトルは「アイドルをクリエイトする」ですが、この題名における「クリエイトする」の主語は、渡辺氏ではなく宗像氏のことなのかもしれません。そして「アイドル」とは、BiSでもBiSHでもなくて、「渡辺淳之介」のことなのかもしれません。宗像さんも、渡辺淳之介の「TO」(トップオタク)の一人なのかも。私に素敵なアイドルの物語を届けてくれた宗像さんに無限大の拍手!!

 

☆宗像さんが聞き手として登壇したイベントのレポをいくつか書いています☆

 

lucas-kq.hatenablog.com

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