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百恵ちゃんの眼差しが効いてる! 『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』(監督:エリザベス宮地)を観ました。

 『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』(以下、『SiS消滅の詩』)を観てきました。私が観に行った日は上映後のトークなどもなかった日だったせいか、ずいぶん席が空いていたように思います。監督はエリザベス宮地さんです。ご本人も個性的な方であるようだし、お撮りになる映像作品も個性的というイメージが漠然とありましたが、こんな正統派のアイドルドキュメンタリーが撮れるなんてビックリでした!! ちなみに、エリザベス宮地監督は僕の大好きなおやすみホログラムの「ニューロマンサー」のMVも撮っておられます。

 で、感想なのですが、端的に言って観ないと損です! すごく良いドキュタリー映画でした。

 この『SiS消滅の詩』は、鑑賞後の感覚が爽やかな青春映画を観た後の感覚に似ている感じがしました。登場する人たちがみんな若いというのが、その要因なのかもしれません。いわゆる「ライブアイドル」の、非常に小さなシーンで起こった出来事を記録した映画なので、内容的にはかなりハイコンテクストです。BiSの背景知識や、ハマジムの撮影チームのこと、渡辺淳之介という人間の人となりについてある程度前提知識が要求される部分もあります(※十分に楽しみ尽くしたい場合に限り)。しかし、この映画には、BiSを取り巻くシーンに詳しくない人が観ても楽しめるようにするための工夫が施されています。まだまだ小さなシーンであることをきちんと相対化できているところに好感が持てました。その工夫とは、「山下百恵」さんという、つばさレコーズのインターンの女子大生(※アイドルには詳しくなく、興味もない)を語り部に据えている点です。WACK・つばさレコーズ・ハマジムのいずれにも属さない外部の視点を導入することで、ショービジネスの世界の「異常さ」をより鮮明にしつつ、これまで渡辺淳之介が手がけてきたプロジェクトについて全然知らない人が感情移入するための「視点人物」を作り上げることに成功しています。また、宮地監督自身も、お手伝いなどは過去にしていたにせよ、ハマジムにどっぷりコミットしている映像作家さんではないので、その辺の距離感もよかったのかもしれません。

 アイドルのドキュメンタリーとしてすごく「正統派」だと思った点はいくつかあって、まず、成長の物語がしっかりと収められているところが王道的でとても素敵だと思いました。これがなくっちゃアイドルのドキュメンタリーを観た気がしません。特に成長著しかったのはココさんだと思います。BiSのオーディションの時点では、やんちゃでお調子者っぽい部分しか感じなかったけれども、ステージに立ちたいというマジな思いとド根性によって、本物の「アイドル」になっていく姿にどんどん惹かれました。一方、テラシマユウカさんは可愛いなあと思ったけど、最後までキャラクターがよく分からないままでした。SiSが続けられないと言われたときの表情がちょっとアイドルとしてやってはいけない表情になっていて冷や冷やしましたが(笑)、それはそれで人間臭くて良かったです。ユイガドクソンさんは、ココさんなみに貪欲さが出ていたと思います。デビューするためなら何でもやりそうというか、根性がすわっていました。

 結果論でしかないのかもしれないけれども、デビューできた子とできなかった子をよく観察してみると、人の話を聞くときの姿勢が全然違うと思いました。このことは、実際に生でその場に居合わせていた撮影チームの皆さんの方が、肌で感じているんじゃないかと思いますが、スクリーンを通じて観るだけでも何となく感じとれました。BiS不合格後の不合格者たちの振る舞いはそれぞれどうであったか。SiSの継続が不可能になった後に、渡辺氏に飲み屋さんや焼肉屋さんに連れて行かれた際、最後までちゃんと起きて大人たちと話を続けたのはいったい誰だったか(※そうすると、デビュー組の中だとテラシマさんはけっこう危ういのですが、これから社会性を獲得して素敵なタレントになられるのだと思っています!)。

 『SiS消滅の詩』を観た直後に私は、爽やかな青春映画を観た後のような気分になったと書きましたが、これは多分、相当好意的な解釈の仕方だと思います。渡辺淳之介のプロデュースでステージに立ち、歌い踊ることを熱望した女の子たちが、ステージに立つことの大変さを身に沁みて学び、晴れて夢の舞台に立つまでの成長の物語」とまとめると、聞こえは良いですが、もちろんそうではない見方もできます。その視点はすでに映画の中でも仕込まれていて、山下百恵さんの眼差しが最後まで効果的に効いていました。土下座する清水さんと、泣きじゃくり、あるいは激怒するSiSメンバーたちを見つめる山下百恵のあの眼差し! そして「何これ?」という字幕の挿入。映画のラストでも、SiS解散翌日以降つばさレコーズに出社することのなかった山下百恵さんのモノローグが字幕によって表示されます。これは、非オタクから見たライブアイドルの世界への率直な感想であり、アイドルのオタクになって久しい私はハッとしました。この映画に「青春」を感じてエモまるという感性は、全然普遍的な感性じゃないのかもしれない・・・。もしかしたらこの映画は、「基礎訓練を終えた少女たちが、いけにえの血をすすり、WACKの従順な兵隊となるまでの物語」でもあるのかもしれないとも思いました。そういう意味では、ちょいとした『女工哀史』のような趣さえ感じられてきます。

 しかし、それでもやはり、ステージに立つ彼女たちはとてもまぶしくて、目が離せないんですよね。最初のBiSオーディションも含めて、手の込んだ残酷な人体実験みたいな面もあるのだけど、結果的に魅力的なアイドルがちゃんと生まれているのが本当にすごい。悪魔のような男ほど素晴らしい仕事をするのだなあと感服するしかありませんでした。渡辺淳之介氏は、戦国時代に生まれていたらきっと天下を取っていたんじゃないかと思わせるカリスマ性があると思います。少なくとも、そういう人物に見えるような撮り方を監督にさせる魅力を持っています。そこが本当にすごい。テアトル新宿の空席の数だけ、人生を損している人がいると思うと本当に勿体無いです! みんな、『SiS消滅の詩』をぜひ劇場で観た方がいいよ!!

 それから、もう一つこのドキュメンタリーが素晴らしいなと思った点は、結局真実は何だったのかということに対する興味を失わせてくれる点だと思います。清水さんがどれほど深刻な失態をやらかしたのかということは結局よく分からないし、なんでそれでSiSを継続できなくなっちゃったのかも十分には説明されません。ピー音のオンパレードで、真相は藪の中です。しかし、そんなことはどうでもよくなるくらいその後の展開が圧倒的に面白かった! 「清水さんが過去に何かやらかしてしまった」ということが、真実でもウソでもどっちでもいいし、その中身も別に説明されなくったていいやと思わせるスピード感で話が進んでいきます。「ドキュメンタリー」は「ノンフィクション」でなくてもよいのです、きっと。渡辺さんが噛んでいるからには、「モキュメンタリー」だと思って観ている人の方が多いと思いますし(たぶん)。いや、もちろんすべて真実の話なのかもしれないですけどもね!

 あと、時々挿入されるカンパニー松尾さんのお話も含蓄に富んでいました。「戦争だったら死んでたよ」「生きてる限りこの戦争は続いていく」という言葉の重み! 宗像明将氏の『アイドルをクリエイトする』もそうであったように、この映画は社会人向けの教科書としても鑑賞することができます。

 パンフレットなどを購入しそびれてしまったので、もう一度劇場に足を運び、パンフレットを熟読して、何か気づくことがあったら2回目の感想を書いてみたいと思います。月末の大反省会のチケットも押さえられたのでそちらも楽しみです!!

 

☆大反省会のレポも書きました。トークの文字起こしもしてあります。 

 

lucas-kq.hatenablog.com

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WHO KiLLED IDOL ? –SiS消滅の詩– 予告編 2/4~劇場公開決定!

 

★映画にもワンカットだけ登場した宗像明将氏のこの本は、映画を観る前や観た後に読むと、面白さが相乗効果でそれぞれ倍増すると思います★

渡辺淳之介:アイドルをクリエイトする (MOBSPROOF EX)

渡辺淳之介:アイドルをクリエイトする (MOBSPROOF EX)

 

 

★姫乃たまさんによるレビューがすごく良かったです★

realsound.jp

 

★西澤さんによるココちゃんへのインタビューも面白いです★

ototoy.jp

 

★そのほかのハマジム作品の感想など★ 

lucas-kq.hatenablog.com

lucas-kq.hatenablog.com

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看板に偽り有りなのではないっすかね。(Eテレ「ねほりんぱほりん」地下アイドル・後編(2月8日放送分)の感想)

 ねほりんぱほりんの「地下アイドル特集」(と自称されている回)の後編を観ました。ちなみに、先日前編の感想も書きました。

lucas-kq.hatenablog.com

 

 今回はストーカー問題や性生活に関わる部分など、取扱注意な話題にも切り込んでいく回だったのですが、さすがに慎重な語られ方をしていました。「ガチ恋をこじらせてストーカーしてしまうオタク『も』おり、オタクがおしなべて危険なわけではない」という点はそれなりに強調されていました。ゲストで呼ばれているアイドルの皆さんは、「自分が思わせぶりな言動を物販でやってしまってることも原因かもしれない」という点については冷静に分析していたし、「太い客には事務所も強く注意できない問題」といった構造的な問題も指摘されるなどしました。

 しかし!!!! それすらも「地下アイドル」の個別・特殊な事例の一つに過ぎないということはどれだけ強調してもし過ぎることはないでしょう。禁止事項をちゃんと伝え、何かあった場合にはしかるべき措置をとっているアイドルは、個人でやっている人でも何らかの運営が後ろに付いているアイドルでも存在していますし、オタクたちの自治が行き届いたコミュニティも存在しています。この番組で紹介されている事例はことごとく地下アイドル界の「最底辺」の話でしかなく、それにもかかわらず「地下アイドル」全体を少数のケースで代表させるような見せ方をしてしまっている点については、あらためて違和感を表明せざるを得ません「地下アイドル特集」を自称しておられるようですが、「生活に困窮気味の最底辺アイドル特集」という番組名の方がふさわしい内容だったのではないかと思われます。

 もちろん、良い話もありました。体を許してまでお客さんをつなぎとめることの是非について話題が及んだときには、地下アイドルなりの矜持が語られていました。また、距離が近い地下アイドルの現場ならではの良さについても語られていました(「バランスを取っているよ!」というポーズなのでしょう)。

 そして相変わらず番組ブログでは奇妙なおまけが公開されています。後編の放送後、「“地下”アイドルあるある」ではなくて、「アイドルあるある」の「アンコール編」なるものが公開されました。内容はメジャーアイドルのライブあるあるのオンパレードです。あらかじめ作ってあったんだと思いますけど、やはり今回の特集のおまけとしてこれを公開する意味がサッパリ分からない。地下アイドルをまともに調査してない/知らないということの告白にしか見えないんですけど。ただ、私の前回の記事が目に入ったのかどうかは知りませんが、今回は、「このレポの検証という名目でどメジャーなアイドルを見に行ってみるもよし。はたまた、もっともっとディープな特殊な地下アイドルの世界に入ってみるもよし。」という文言が添えられていました。どメジャーアイドルのライブDVDを何本か見れば誰でも描ける程度のおまけでしかないということは自覚なさっているみたいですね。

www.nhk.or.jp

 それにしても、カラオケで数名のお客さんの前で歌っている女の子まで、地下アイドルにカウントして良いものなのでしょうか。そして、“たったの”70名強の取材でこの特集を組み、放送してしまった制作陣のハートの強さが逆にあっぱれすぎると思いました。取材対象に肩入れをし過ぎてしまい、「俺たちの好きなもの万歳!」になってしまうのは良くないことですが、取材対象のことをあまりに知らな過ぎているのも問題でしょう。「炎上」上等の話題作りに重きを置いた番組作りは、ちっともクールではないとも思いますし。それとも、Eテレなりの高度な「リテラシー教育」を体現なさってくれているつもりなのでしょうか。ポスト・トゥルースの時代の生きた教科書をいち早く見せつけてくれるなんて、さすがすぎます!!

 

 地下アイドルまとめブログさんは、興味深いつぶやきを拾い集めたエントリーをあげておられます。タイトルでも触れられている、超超超リテラシーの低いオタクの勘違いツイートも面白いですけれど(笑) 

地下アイドルまとめブログ 先日のねほりんぱほりん、とんでもない誤解を生む 「そのえれん?ちゃんアイドル腐ってる」「ボッキーゲーム」「ねほりんってアイドルくさってる」